島村英紀『夕刊フジ』 2023年12月29日(金曜)。4面。コラムその523「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
中国内陸部で零下14度で地震 多数の死傷者につながった「日干しれんが」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「中国内陸部、気温マイナス14度の深夜に地震 M6・2にも関わらず…多数の死傷者につながった「日干しれんが」」
島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る深夜、マイナス14度のところに地震で放り出されたらどうなるだろう。
中国内陸部で甘粛省でで地震が起きて127人死亡、このほか、土砂崩れに巻き込まれ20人が行方不明となっている。負傷者は700人超に上り、被害はさらに拡大する恐れがある。
地震は12月18日現地時間で午後11時59分、大部分の人が寝静まっている時間だった。人々は寝間着で飛び出した。外は零下14度の温度だということは考える余裕もなかったに違いない。
地震が起きる時間は予測できない。深夜でも昼間でも起きる。トルコ・シリアで6万人近くが犠牲になった2023年2月6日の地震は4時すぎだったし、トルコ第2の被害を生んだエルジンジャン地震 (1939年)は午前2時前だった。
ともに人々が寝静まっている時間に起きた。地震は時や季節を選んで起きてくれるわけではない。
12月の中国の地震はマグニチュード(M)は6.2、震源の深さは10キロと浅い地震だった。標高の高い土地ゆえ氷点下の厳しい寒さだ。停電や断水も起きた。
現地では5万以上の家屋などに被害が確認されている。住宅の耐震性が日干し煉瓦で弱かったことなどが多数の死傷者につながった。
M6.2の地震だった。日本ではこのM では考えられない死者数だ。これはもっぱら「日干し煉瓦」のせいだ。
木材がない中国南部や中近東や中央アジアの国々では泥をこねて太陽で干しただけ、つまり火で焼き固めていない日干し煉瓦で家を造る。庶民の家はこのように安くて入手しやすい材料で作る。
日干し煉瓦は建築材料としては悪いものではない。手に入れるのは容易だし、熱を吸収してゆっくり放出するから家のなかは涼しい。外が40℃近くの夏でも、中は25℃ほどだ。暑くて乾いた気候には適しているのだ。砂漠の国で木材もない環境では、ほかに選択肢がないだけに、最も適している材料だろう。だが地震にはとても弱いのである。
一方、現地は10数階ある高層アパートも建っている人口密集地でもある。地震の激しい揺れで高層階から駆け下りて逃げ出した人も多かった。
東日本大震災(2011年)のときに東京でも高層階ほど揺れが大きく使えなくなったゴミが多量に出されたことがある。高層階は地震に安全とは限らないのだ。
しかもインド亜大陸というプレートが押して来ている。インド亜大陸はいまも北上を続けている。
このためアフガニスタンをはじめ中国南部、パキスタン、ネパールなどに大地震を起こしている。
今度の中国内陸の地震もインド亜大陸が起こした地震の一つだ。中国は地震が起きやすいところで、被害が大きくなりやすいところなのである。
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