島村英紀『夕刊フジ』 2023年12月22日(金曜)。4面。コラムその522「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

北極圏の海氷が消える 膨大な資源、日米露など各国が取り合い
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「北極圏の海氷が消える¥]来予測より10年早く…温室効果ガス削減も手遅れ 膨大な資源、日米露など各国で争奪戦に」
 

 夏の北極圏から海氷が消えるようになるのが、従来の予測よりも約10年早く実現する可能性が出てきた。早ければ2030年代にも9月中には完全に消え去ると、科学者らは報告した。

 海氷の減退は大半が人間由来の温暖化に起因する。もし世界が現時点で温室効果ガスを大幅に削減しても北極圏の海氷は予想より早く夏の間消失する恐れがある。

 北極海には南極大陸のような陸地はない。海が拡がっているだけだ。

 よく誤解されるのだが、北極海の海氷が溶けても海氷の増加はない。アルキメデスの原理で氷に浮いた海氷が溶けても海氷の増加はない。海水が増えるのは、南極大陸やグリーンランドやヒマラヤなどの陸地にある氷が解けるときだけだ。

 じつは虎視眈々、北極圏は各国が狙っている。

 南極条約があって資源の探査や採掘が禁止されているのと違って、北極にはルールがない。

 いまは砕氷船の先導で試験航海が行われている段階だが、もし海氷が消えれば、欧州から北米や東アジアに至る航路は大幅に短くなる。

 そのうえ北極圏の海底に眠る資源は膨大だ。

 南極条約があって資源の探査や採掘が禁止されているのとは違う。

 1961年に戦争一歩手前まで行った事件への反省もあって発効した南極条約によって、南極の領有権は凍結され、資源の試掘調査も、経済利用も、軍事利用も出来ないことになった。

 この南極条約は、日本など12カ国で採択された。その後南極の研究実績を作った国が次々に条約に参加した。当初の3倍近い数の国が参加するようになったのだ。

 南極条約にもほころびがないわけではない。 各国の領土宣言が凍結されている現状では、南極観測への新規参入が後を絶たない。これは、もし将来凍結が解除されたときを睨んで、それぞれの「国益」のためだ。中国や韓国も、比較的近年、参入した。

 一方でアルゼンチンやチリでは領土の「実質化」も進んでいる。私がアルゼンチンの南極基地に飛行機で飛んだときには、子供連れのお母さんと一緒だった。現地に行ってみたら、お母さんが学校の先生、子供が生徒というわけだった。つまり、南極基地に学校や銀行や観光客のためのホテルを作り、南極ベビーを誕生させるなど、居住や生活の「実績」を積み重ねてきている。

 一応の南極条約があって資源の探査や採掘が禁止されているのと違って、北極圏の資源の取り合いが各国の間で盛んだ。

 長い海岸線を持つロシアはもちろん、カナダ、アイスランド、ノルウエー、北極圏にグリーンランドを持つデンマークなどがある。

 むろん航路の利点が大きい日本をはじめ米国や東アジアの国々も狙っている。

 北極海はいま、先を見越した注目が集まっている海なのだ。
 

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