島村英紀『夕刊フジ』 2023年8月11日(金曜)。4面。コラムその504「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
米国と地震予知
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「米国と地震予知 本震が来るに違いない£Nもが思った「パークフィールド」で「不発」』
世界の地震学者がここなら地震予知は可能だと思っていた場所がある。それは米国サンフランシスコとロサンゼルスのほぼ中間にある、カリフォルニア州パークフィールドである。
過去にここで起きた地震をグラフで表すと、きれいに等間隔で並ぶ。1857年、1881年、1901年…。いままで6回の地震が繰り返されていることがわかっている。
6回の「本震」のマグニチュード(M)はほぼ6であり、繰り返しはおおむね22年ごとで、最後は1966年だった。
一方、約9000キロ離れたオランダの地震観測所では、最近の3回の地震の記録が残っている。その記録は3回とも、実によく似た記録だった。
本震の波形が似ているだけではない。最後の2回の地震では、本震の17分前にM5の「前震」が起きていることまでそっくりだった。
北日本がそうであるように、米国でも先住民族が文字による歴史を残していなかったために、この6回の繰り返し以前は確かめようがない。この6回以前にも繰り返していた可能性がある。
つまり、これなら次の地震の予知ができるに違いないと地震学者が考えたのも無理はなかった。
研究者は、網の目のような綿密な観測網を展開して、次の地震が来るのを待った。
そして1992年10月に、ついにM4.7の地震が起きた。これは前の2回の本震の前に起きたM5の「前震」と非常によく似た大きさだった。では本震である地震が来るに違いない、と誰でもが思った。
日本の地震予知は気象庁の管轄だが、米国の地震予知に責任を持つ国家機関は連邦地震予知評価会議である。連邦の評価会議も本震が切迫しているという結論を出した。
しかし、本震は起きなかった。
じつは、地殻変動、井戸の水位変化などのデータに小さな変化は見られた。これらのデータの変化がもしかしたら「前兆」で、その「前兆」があったのに、何らかの理由で本震が「不発」だった可能性がある。
地震予知は不可能というある米国人の学説がある。本当かもしれない。起きる地震が大きなものになるかどうかは高速道路の交通事故と似ている、はじめの2台がぶつかったのが大事故になるかどうかは後ろに続く交通量によるという説だ。起きる地震が大きなものになるかどうかは最初に起きた小さな地震ではなくて交通量に左右されるという学説だ。
しかし、いずれにせよ、パークフィールドで地震予知はできなかったことは確かであった。
地震は不確定に起きる。非線形のものを扱う金属疲労と似ている。輪ゴムを引っ張っていったときにも、いつかは切れるのを知りながら、いつ切れるかが分からないのと同じである。
壊れる時間をあらかじめ予測することは不可能なのである。
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