島村英紀『夕刊フジ』 2022年7月22日(金曜)。4面。コラムその454。「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
水害の危機感募る江戸川区など東部5区
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「世界各地で洪水被害、日本も例外ではない! 水害の危機感募る江戸川区など東部5区」
世界各地で洪水の被害のニュースが報じられている。
インド北東部やバングラデシュで起きた歴史的な大洪水は、この1ヶ月で100人以上の命を奪い、1000万人近い生活を脅かしている。
洪水の危険性がある地域に住む人々の大半は、南・東アジアやアフリカといった低中所得の国に集中している。低中所得国では16億1000万人にもなる。そのうち12億4000万人が南・東アジアで暮らしていて、中国(人口3億9500万人)とインド(同3億9000万人)がそれぞれ3分の1を占めている。
だが米国のような低中所得ではない国でも2億人近くが洪水の危険に直面している。ドイツでも大洪水の被害があった。
世界の18億人、つまり世界の人口の4人に1人が100年に1度の大洪水の危機に遭うという論文もある。
日本も例外ではない。長らく災害がなかった荒川が氾濫したら首都圏が広く水につかることが十分に考えられる。地下宮殿といわれる巨大な地中タンクや放水路などが整備されているが、大雨には間に合わない。
なかでも「江東5区」と言われる江戸川区、墨田区、江東区、足立区、葛飾区の5つの区は東京の下町の水害が心配な区だ。大雨ではなくても台風でも地震津波でも水害が起きる。
たとえば江戸川区の南端にある「なぎさニュータウン団地」。ゼロメートル地帯に立つ。そもそも江戸川区は区域の7割が海抜ゼロメートル地帯だ。江戸川区は西を荒川、東を江戸川、南を東京湾に囲まれている。
ニュータウンは13〜14階建ての7棟。東京湾をのぞむ景観に恵まれているが、築40年余。2800人の住民の約4割は高齢者で、独居の人も多い。
水害で最悪の場合、2階まで浸水すると想定されている。だが、ふだん付き合いのない3階以上の階で人々を受け入れてくれるかは疑わしい。
行政は広域避難でしか命が助からないという。事前に地域外へ逃れる想定をしているのだ。けれど広域避難をするにしても、しかも避難先が確保できても移動手段に課題が残る。公共交通機関が通常通り運行している保証はないからだ。
周辺では、一度浸水すれば、約1週間は水がひかない。
住民らは水害発生後も団地にとどまる「籠城避難」の備えを進めている。籠城避難は食料は備蓄できても、たとえば救急医療からは切り離される。簡単なものではない。
ニュータウン以外でも江戸川区西部もゼロメートル地帯が広がる。約2300世帯の多くが一軒家で、木造住宅も目立つ。上層階に避難ができるような高層の建物に逃げようにもわずかしかない。
江戸川区の人口は70万人。鳥取県や島根県よりも多い。水害が起きなければ何の問題もないところだが、江戸川区は危機感を募らせている。
ほかの江東5区でも同じようなものだ。それだけではない、首都圏、いや日本には、同じ問題を抱えているところが多い。
しかし地球温暖化で地球全体が様変わりしつつある。世界で18億人が100年に1度の大洪水の危機に直面しているのだ。
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