島村英紀『夕刊フジ』 2021年7月30日(金曜)。4面。コラムその406。「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」
伊予灘でM5.1 繰り返す「海溝型地震」
『夕刊フジ』公式ホームページの題も同じ
7月17日夜に伊予灘で地震があり、大分、山口、愛媛の3県で震度4を観測した。震度4とは、歩いている人でも感じるほどの揺れだ。幸い、人々がびっくりしたくらいで被害はなかった。マグニチュード(M)5.1、深さは80キロだった。
震央(震源の真上の地点)は伊予灘、愛媛県の北側の瀬戸内海だ。しかし地震学者から見ると、これはフィリピン海プレートが潜り込んでいくときに起こした地震で、震源の上がたまたま瀬戸内海だったのにすぎない。
ここは地震が繰り返しているところだ。フィリピン海プレートが南海トラフからユーラシアプレートの下へ潜り込んでいる。プレートは北北西に向かって深くなっていって、先端は中国地方沖の日本海にまで達している。先端部の深さは地下100キロほどだ。
今回の地震はM5.1だった。だが、ひとつ前の地震は7年前の2014年に起きてM6.2。地震のエネルギーにして約50倍も大きかった。近隣の6県で21人の負傷者、半壊の家26軒が出た。
もう一つ前には2001年の「芸予(げいよ)地震」でM6.7。被害は広く8県に及んで死者2、家屋の全半壊は600棟を超えた。
じつは、もっと前の地震はさらに大きかった。1905年に起きた「明治芸予地震」はM7.2。11人の死者が出た。もっと前にも1857年、1686年、1649年に同じ場所での地震が知られている。
数十年おきに地震がくり返しているわけだ。この地域の瀬戸内海の地下でフィリピン海プレートが不自然な曲がり方をしている。これは中国地方から九州への地表面の曲がりに対応している。
この曲がりが地震のエネルギーを溜め、地震のくり返しに関係しているらしい。
フィリピン海プレートは年に4.5センチという一定の速さで押してきているから、毎年、ひずみが溜まっていっている。いつかはひずみに耐えきれなくなって地震が起きるという構図だ。
これは日本に起きる二種類の地震のうち、海溝型の地震の起き方だ。いずれは起きることが海溝型地震の特徴である。
話は首都圏に飛ぶ。首都圏もまた、フィリピン海プレートが潜り込む場所の真上にある。
このために海溝型地震は、一定の速さで押し寄せてくるフィリピン海プレートの動きで、溜まったひずみに耐えられなくなったら起きる。海溝型地震は東日本大震災(2011年)のように、多くの場合には太平洋岸の沖に起きるが、間の悪いことに首都圏の直下でも起きてしまう。
海溝型地震は繰り返す。10万人以上が犠牲になった1923年の関東地震は、先代が1703年の元禄関東地震だった。房総半島の隆起量の調査で、名前が付いていないもっと前の海溝型地震もいくつも知られている。
フィリピン海プレートが動いていてひずみが溜まっていくかぎり、いずれは次の関東地震が起きる宿命にあるのだ。
一方、内陸直下型地震はいつ、どこで起きるのかは分からない。首都圏かもしれない。
日本、そして首都圏は二種類の地震の板挟みになっている地震国なのである。
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