島村英紀『夕刊フジ』 2014年3月14日(金曜)。5面。コラムその43 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

加入増加も 問題多い地震保険
『夕刊フジ』公式ホームページでの副題は地域で大差がある保険料」

 このところ地震保険の加入率が上がっている。東日本大震災(2011年)などの大地震があるたびに階段状に上がってきた。東日本大震災の年には全国で5.6%というそれまでにない伸びだった。なかでも被害が大きかった岩手、宮城、福島の各県では12-18%も伸びた。

 地震保険が誕生したのは1966年。2年前の新潟地震がきっかけだった。

 しかし地震保険には大きな制約がある。

 第一に損害額が受け取れる地震保険金となるわけではないことだ。

 保険に入っていても、失った住宅や家財を元通りにはできない。これは支払額が火災保険の保険金額の30-50%の範囲内しか出ないからだ。地震で全焼してしまっても最大でも火災保険の半分しか支払われない。

 第二には居住住宅以外は対象外だ。工場や事務所などは保険でカバーされない。

 また単独では入れない制約だ。地震保険は火災保険とセットにしないと加入出来ない。

 地震保険は当初、建物の補償限度は90万円まで、家財は60万円まで、それも全損のときだけ支払われる仕組みだった。また一回の地震での支払の総額は3000億円までで、もしそれを超えたら、それぞれの支払が減額される仕組みだった。

 これではいかにも低すぎるというので、その後段階的に引き上げられた。いまは建物は最大50%、補償限度は建物が5000万円まで、家財は1000万円までだ。

 そして保険金総額の上限が6兆2000億円になっている。これは想定される南海トラフ地震の被害を保険が支払う金額に相当するとされている。

 だが、これは西日本の2府21県の契約者についての想定にすぎず、もしこれを超えたら、支払は減額されてしまう。

 さらに問題がある。地域によって3倍以上もある保険料の不公平さである。

 現在の地震保険は1等地から4等地までの4区域で保険料が違う。地域によって木造の家で3倍、木造ではないコンクリートなどの家では3.5倍の違いがある。いちばん保険料が高い4等地になっているのは東京都、神奈川県、静岡県だ。

 この地域差は将来の地震危険度の全国地図を勘案して作られている。

 だが1985年に地震学者が作った地震危険度の地図では、その後に起きた阪神淡路大震災、鳥取県西部地震、芸予地震、新潟中越地震、新潟中越沖地震の地域はいずれも最も安全なところとされていた。

 地図は、歴史上分かっている地震のほか、活断層のうち活動度が分かっているものが起こす地震も入れてある。しかし最近のものも含めてこの種の地図は、将来、地震が起きるかどうかを見るためには信用できない地図なのだ。

 いまの地震学では将来の地震の予測は出来ない。

 地震保険は全国平均でまだ26%にすぎない。これはまだ問題が多いからなのだろう。

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