島村英紀『夕刊フジ』 2020年5月22日(金曜)。4面。コラムその349「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

新電力の救世主?「火山岩の電池」 独シーメンスが開発 コストはリチウムの10分の1
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「新電力の救世主? 独シーメンスが「火山岩の電池」開発、コストはリチウムの10分の1」

 火山岩が大量にドイツで使われている。火山岩とは、マグマ由来の岩石である火成(かせい)岩のうち、火口近くで急激にマグマが冷えて固まったものだ。アイスランド全体をカバーしている玄武(げんぶ)岩などがそれにあたる。

 太陽光、風力発電など新電力の伸びが著しい。しかし多くの新電力は天候や日時によって発電能力が左右される欠点が悩みだ。このため、安定した電力を得るために、電力の蓄え、つまり電池が必要になる。

 いままでは、このためにリチウムイオン蓄電池を使うのが一般的だった。だがコストが高いのが難点だった。

 そこで、火山岩を大量に使った安価な「新電池」がドイツで登場しようとしている。電力の変換効率はリチウム電池の半分だが、コストは10分の1ですむ。


 シーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー社は、この「新電池」の開発を始めている。同社は総合電機では世界大手のドイツ・シーメンスの子会社である。


 シーメンスといえば、同社のインバーターを搭載した京浜急行の一部の車両で、発車時に発する音が「ドレミファ」に聞こえるようにインバーターの磁励音を調整したことで日本でも知られている。


 ところで、この新電池は大量の火山岩を余った電力で高温にして、電力が足りないときに発電しようとするものだ。


 加熱はファンとヒーターを使っている。ヘアドライヤーのようなものだ。電力を熱エネルギーに変換して蓄積するわけである。


 発電は岩石に蓄えられた高温の水蒸気でタービンをまわす。蓄電も発電もごくありふれた量産品でまかなえるので、圧倒的に低コストなのが取り柄だ。


 装置は昨年に作られた。大量の岩石を詰め込んだ容器の内部容積は800立方メートル。ビルくらいもある。このなかに1000トンの火山岩が詰められ、さらに厚さ数メートルの断熱材で包んである。火山岩は約3センチ角ほどに砕いてある。


 岩石の温度は600〜750℃まで上げられる。いったん温めると冷めにくいので1週間は温度が持続する。このプラントの出力は1.5MW(メガワット)。ドイツの平均的な世帯1500戸が消費する電力量や、50台の電気自動車を満充電状態にできる電力量に相当する。2022年には、5万世帯をまかなえる蓄電施設を建設するという。この規模だと商用になる。


 このプラントの建設場所は北ドイツ・ハンブルグにある。風力発電設備も同所に併設し、この風力発電の設備からの電力を蓄電設備に貯める仕組みだ。風が弱いときがこの電池の「出番」だ。

 この装置に火山岩を使う理由は、熱容量が大きく、この温度では溶けたりしないためだ。火山から出てくる溶岩流は溶けていて1200℃ほどだから、それよりも温度は低い。また、火山のまわりにはありあまるほどあって、容易に調達できることも大事な理由だ。

 さて、この火山岩を大量に使った新しい電池が、新電力を救う救世主になるのだろうか。


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(写真はシーメンスの音階インバーターを使った京浜急行。都営地下鉄大門駅で。Olympus OM-D, レンズは34mm相当, F4.2, 1/320s, ISO3200)

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