島村英紀『夕刊フジ』 2020年4月24日(金曜)。4面。コラムその345「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

南極にジャングル、恐竜もいた!?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「
9000万年前の「白亜紀」の時代、南極大陸はジャングルで恐竜もいた!?

 じつは、いまの地球は氷河期にある。

 それは氷河期の定義では「地球上のどこかに氷河がある時期」としてあるからだ。いまの地球には南極にもグリーンランドにも、また南米や中国の奥地にも氷河があるから氷河期なのである。

 過去の地球には氷河が世界中のどこにもない時代があった。恐竜がのし歩いていた時期も、地球上、どこにも氷河がなかった暖かい時代だった。


 そして、「氷河期」の中でも寒い時期を「氷期」といい、氷河期の中でも比較的暖かい時期を「間氷期」と名づけている。まぎらわしいが、いまは氷河学では「氷河期の中の間氷期」なのである。


 地球温暖化が問題になっている。昔の地球がどんな温度だったのかを調べる一環として、南極海でボーリングが行われ、この4月に成果が明らかになった。南極大陸は厚い氷河で覆われているので陸上では地下を探れない。海底ならば海底下で古い堆積物を探ることができる。


 科学者たちはドイツの南極観測船「ポーラーシュテルン」で南極のアムンゼン海を海底掘削装置で掘った。アムンゼン海は南緯74度。夏とはいえ氷山が多く、ヘリコプターや衛星画像で周辺を監視しながら作業が行われた。この結果、海底下30メートルで大量の花粉や根が発見された。


 この地層は9000万年前。「白亜(はくあ)紀」の時代だった。いまは氷に覆われている南極大陸が鬱蒼(うっそう)としたジャングルだったことが実証されたのだ。恐竜もいたにちがいない。


 そのあと、地球は寒冷化したり温暖化したりしながら、数万年前から寒くなった。氷期の到来である。地球の多く、米国のニューヨークや、ノルウェーやスウェーデンなどが載るスカンジナビア半島も氷河におおわれた。


 そして約一万年前に、地球上の氷河が減って、大幅に後退を始めた。


 氷河の減少のために、スカンジナビア半島に厚く載っていた氷河が融けて「重し」が取れた。そのため、その後、半島は隆起を続けている。いままでに最大250メートルも盛り上がった。その隆起の速度は少しずつ遅くなってきているが、いまの速さは年に1センチほどだ。


 一方、カナダ北部にあるハドソン湾沿岸には昔からイヌイットが住んでいるが、古老たちはハドソン湾の中に新しい島が次々に生まれてきたのを見ている。


 氷河の重しが取れたために、押されて凹んでいた地球のマントルが、スカンジナビア半島でもハドソン湾でも、元へ戻ってきて地殻を押し上げているのである。


 ところで、私も乗ったことがある「ポーラーシュテルン」は、2009年から動いている日本の南極観測船「しらせ」とほぼ同じ大きさだ。


 だが、日本の南極観測船が年に一回、昭和基地に行くだけなのに、ドイツの南極基地に2回行って観測隊や資材を下ろす仕事をしているほか、北半球の夏には、各国の科学者を乗せて北の氷海を研究している。船齢が40年にも達する老齢船だが、日本の南極観測船よりずっと多くの働きをしているのである。


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(写真は、いずれも島村英紀撮影。2004年、ポーラーシュテルンで。ポーラーシュテルン全景と、食堂(バー)の壁一杯に飾られた、乗船した各国科学者と共同研究として行われた科学計画のペナント。船の舳先が丸いのは、厚い氷に乗り上げて割るためである。右はドイツの南極観測100周年の記念切手。ポーラーシュテルンが見える2004年の第28回南極研究科学委員会(SCAR)総会(ドイツ・ブレーメンハーフェン)で参加者に配られた


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