島村英紀『夕刊フジ』 2020年4月3日(金曜)。4面。コラムその342「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

太陽の「黒点」が世界経済に影響?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は太陽の「黒点」減少が世界経済に影響している!?

 世界中で新型コロナウィルスが猛威をふるっている。その経済的な影響も甚大で、リーマンショックを超える。

 その「元」になるのは太陽の「黒点」の減少ではないかという説がある。昨年秋から太陽黒点の減少に合わせて、今年の夏ごろまでに世界金融市場を揺るがすショックが起きる可能性がささやかれていた。当時はまだコロナウィルスが現れる前だった。


 太陽黒点と経済の連動説は、19世紀後半に英国の経済学者W.S.ジェボンズによって提唱された。だが、この関係についてはまだ科学的に立証されているわけではない。


 だが、世界的な金融市場ショックと太陽の黒点の極小期はあまりに符合している。黒点の極小期は11年周期で訪れるが、前回は2008年でリーマンショックに端を発した世界的金融危機と一致するし、前々回は1996年でアジア通貨危機の、またその前は1986年でブラックマンデーのそれぞれ1年前の予兆となった。


 太陽表面で黒く見える黒点はまわりよりも温度が低く、強い磁場に満たされた場所だ。太陽の内部では水素の核融合反応によって、膨大なエネルギーが作り出されている。太陽の表面は温度6000℃、磁場30ガウスほどだが、黒点の部分は4000℃、3000ガウスと低温で強い磁場をもった場所である。「点」といわれるが、大きさは幅3万キロ、地球3個が入ってしまうほど大きい。


 黒点の数は太陽の活動状況によって増えたり減ったりして11年の周期で繰り返されている。黒点は、太陽の赤道を挟んで対称に現れる。


 太陽の観測が始まったのは自作した望遠鏡で太陽を観察したガリレオ以来で、すでに400年経っているが、どうやって黒点が出現するのか、なぜこの周期が現れるのかは分かっていない。


 今年はリーマンショックから12年。じつは黒点の周期もその長さが13年に伸びていた。これは、ガリレオが太陽の観察を始めたころから数十年
間の状況とよく似ている。当時の太陽は黒点の数が極端に少なく、周期も長かったことから「マウンダー極小期」と呼ばれており、その影響からか地球は今より寒かった。太陽は約400年ぶりにマウンダー極小期を迎え、黒点の周期も地球環境も変わるのではないかと考えている研究者もいる。


 さて、太陽黒点は地球規模の経済に影響するのだろうか。


 黒点が減ることは太陽活動が低下することだ。このことによって地球に到達する宇宙からの放射線量が増え、たとえば雲の量が増えるなど地球のあちこちに影響する可能性がある。


 昨年のように梅雨明けが遅れて曇天が続くと、アイスクリームやビール、それにレジャー関連も減って消費が悪化する。2019年夏の小売業販売額は前年比減少に転じてしまった。太陽の動向が景気に影響を及ぼすことは確かなようだ。


 地球上に生きる私たちは太陽のもとに生きているから太陽活動の影響を受けてもおかしくないのである。


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