島村英紀『夕刊フジ』 2020年1月31日(金曜)。4面。コラムその333「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

全地球凍結解消は巨大隕石の衝突?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「地球全体が氷や雪に覆われた「スノーボールアース」時代 巨大隕石が温暖化の援軍に」

 スイスのダボスで世界経済フォーラム年次総会が開かれ、スウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんと、米国のドナルド・トランプ大統領が地球温暖化について舌戦を闘わせた。

 地球はかつて、いまより温度が高くて地球上どこにでも氷河がない時代も、全体が氷や雪に覆われた約22億年前の「スノーボールアース」の時代も経験した。たとえば恐竜が栄えていた時代はいまよりも暖かかった。

 スノーボールアースは、1990年代に米国カリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビングが唱えた学説だ。

 スノーボールアースになってしまったら地球全体が氷に覆われる。海水も凍る。氷や雪は太陽からの熱を反射してしまうから、地球は太陽から来る熱を受け取りにくくなる。地表が氷に覆われてしまうと生物は死に絶えて生物が出す二酸化炭素が減る。こうして地球の温度は下がり続ける。こうした「正のフィードバック」が働くのだ。

 いったんスノーボールアースになってしまうと、そこから抜け出すことができないはずという反論が強くて、学会の主流にはなれなかった。

 一方、スノーボールアース後のいくつかの証拠があった。たとえばキャップカーボネイトといわれる氷河堆積物の直上にある炭酸塩岩層がアフリカ南部のナミビアなどで発見された。これはスノーボールアースの終結後に二酸化炭素が岩石に取り込まれたことを示している証拠だ。また当時は赤道周辺であったと推定される世界各地の場所で、スノーボールアースの時代の氷河堆積物が見つかっている。つまり一時は存在した氷河が溶けて流れた残存物である。

 ところで、このスノーボールアースの時代に、かわいそうなのは生物だった。いままで生きてきた環境が破壊されて多くの生物は死滅してしまい、僅かに深海のブラックスモーカーの近くなど、火山活動が起きている場所で細々と生きていたのだ。

 しかしその後、生物はその反動から、爆発的な進化を遂げた。古生代の始まり、つまり5億400万年前に起きてその原因が不明だった「カンブリア爆発」という生物の進化の一大事件になったのではないかと考えている科学者は多い。

 ではスノーボールアースからどうやって抜け出せたのだろう。これは難題だった。

 だが、今年になって報じられたところではオーストラリア西部ヤラババ周辺で大きな隕石が落ちた跡が見つかり、その時期がぴったりスノーボールアースから抜け出した時期になることが分かった。クレーターの直径は70キロにもなる。巨大な隕石が地球の温暖化を助ける強力な援軍になったのだ。

 地球は正のフィードバックがかかりやすい。温暖化も、人間の排出量が増えるだけではなく、生物が増えて二酸化炭素が増えると地球全体が温暖化するなど、正のフィードバックがかかる。フィードバックから回復するには、きっかけと数万年以上の長い時間がいる。

 さて、いまは地球は温暖化に向かう正のフィードバックの時期にあるのだろうか。


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