島村英紀『夕刊フジ』 2019年8月30日(金曜)。4面。コラムその312「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

北海道胆振東部地震から1年----今も課題の「震度」情報
『夕刊フジ』公式ホームページの題も同じ

 北海道胆振(いぶり)東部地震から来月の6日で1年。マグニチュード(M)は6.7、最大震度は7だった。北海道全域でブラックアウト(停電)が発生した。不意打ちで、いままでに地震が起きたことが知られていなかったところだった。

 震度7は2016年4月の二つの熊本地震以来2年半ぶりだった。震度7はこの地震以後はない。

 現地は過疎地だが、厚真(あつま)町では土砂崩れに巻き込まれた36人が死亡するなど死者42人を出した。

 この地震で目立ったことは火山灰地の崩落だった。崩壊した面積は明治以降で日本最大だった。

 このあたりは西50キロにある支笏(しこつ)カルデラから4万年あまり前に出た火山灰が厚く降り積もった。それ以後の大きな地震はなかったので、火山灰が林に覆われていた山肌が、あちこちで崩れた。このため山裾にあった住宅約13000棟が損壊し、田畑も広く損害を受けた。

 この地震では50キロ以上も北にある札幌市でも震度6弱を記録して、家が傾くなどの液状化被害が出た。札幌南部も支笏カルデラから来た火山灰に広く覆われている。建築材料として重宝されていて多くのビルが造られた「札幌軟石」も火山灰が固まったものだ。

 日本には、九州南部のシラス台地など、昔の火山灰が厚く堆積しているところが多い。地震のときに、胆振東部地震のような被害が出る可能性が大きい。

 ところで、震度7は日本では最高の震度で、これ以上の震度はない。そのすぐ下は震度6強になる。その6強は、この5年来、上の地震3つの震源周辺と2019年6月の山形県沖に起きたM6.7の地震だけだった。

 ところが山形県沖の本震と余震の震源分布を見ると、震源に最も近いのは山形・鶴岡市小岩川だ。だが震度の計測データは小岩川にはない。震源から遠い新潟・村上市には震度計があり、そこで震度6強だったから、小岩川では、もっと震度が大きかった可能性が大きい。

 地震から2ヶ月がたったいまでも、小岩川の集落ではブルーシートで覆われた家屋や墓地が目立つ。「危険家屋」などの表示のまま、住めなくなった家も多い。

 震度計は1995年の阪神淡路大震災以後、全国で増やされて4200カ所に設置されている。気象庁のほか、防災科学技術研究所と各自治体が設置している。

 じつは胆振東部地震でも、厚真町、むかわ町、日高町、平取(びらとり)町、新冠(にいかっぷ)町の震度が入電されなかったので、当初は震度速報では安平(あびら)町で観測した震度6強を最大震度として気象庁が発表していた。

 その後震度7を厚真町鹿沼で観測していたことが分かって最大震度を訂正した。地震は明け方3時すぎだったが、分かったのは当日の夕方だった。

 震度は、地震が起きた直後に初動態勢をとるのに最も重要な情報だが、胆振東部地震の例では最大震度が分からなかったし、山形の例のように、震度計がないところは多く、そこでの震度は分からない。

 震度にもまだいろいろの問題があるのだ。

(写真上は2019年8月に山形県・小岩川で撮影。撮影機材はOlympus OM-D E-M1、35mm換算で66mm相当。写真下は震度計。下部がセンサーで、上部が表示部。東京・上野の科学博物館で。撮影機材はOlympus OM-D E-M1、35mm換算で50mm相当。)


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