島村英紀『夕刊フジ』 2019年7月12日(金曜)。4面。コラムその305「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

カリフォルニア脅かす群発地震----長さ1300キロの活断層が原因
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「カリフォルニアを脅かす群発地震 長さ1300キロの活断層が原因」


 米国には50の州があるが、ニューヨークにもシカゴにも地震は起きない。地震があるのは西海岸のカリフォルニア州と北に離れたアラスカ州だけだ。

 そのカリフォルニア州を南北に縦断してサンアンドレアス断層という活断層が走っている。長さが1300キロもあり、草木の少ないカリフォルニアなので、よく見える。同州で起きた地震はすべてサンアンドレアス断層絡みなのである。

 このサンアンドレアス断層は部分部分で性質が違う。いつも動いているクリープ断層と、ふだんは動かない断層とがある。このうち、ふだんは動かない断層が地震を起こす。

 1906年に起きたサンフランシスコ大地震はサンアンドレアス断層の北部が起こした地震で、米国の大都市を襲った地震として最大の被害を生んだ。マグニチュード(M)は7.8だった。当時のサンフランシスコの人口は40万人だったが、死者は約3千人以上、22万5千人が家を失った。

 十分な耐震強度を備えていなかった建造物の多くが倒壊し、火は3日間燃え続けた。

 市長は、市内に出動する兵士と警察官に「略奪者はその場で射殺せよ」と命じた。これは厳密には違法だが、市長は責任を問われなかった。

 以後、米国でも耐震建築が盛んになり、カリフォルニアでは内部の人間が逃げ出せるように、ドアは外開きにしなければならない。

 ところで、このところカリフォルニア州の南部ジュルーパ・バレーで小さな地震が集中的に発生していて、地元民を不安に陥れている。震源は数キロ四方の地域に集中している。ジュルーパは同断層の南部に近いところで、ロサンゼルスの50キロほど東にある。

 全米の地震観測を担当している米国地質調査所(USGS)によれば、同地で観測された地震が5月25日以来、400回を超えた。いまのところはMは0.8〜3.2と小さい地震で、人間が揺れを感じる大きさの地震は数回程度にすぎない。

 このジュルーパでは今年2月と3月、また昨年7月と8月にも小さな地震の群発があった。

 いままでは、いちばん大きな地震はM4だった。だが、いまの地震学では、この群発地震でどのくらい大きな地震が起きるのかは分からない。将来はずっと大きな地震を起こす可能性をけして否定できないのだ。

 USGSはサンアンドレアス断層のあちこちが今後も地震を起こすことを警告している。とくに北部では今後30年間にM6.7以上の地震が起きる確率が63パーセントあるという予想を示している。

 1989年にはサンアンドレアス断層の北部でM6.9のロマ・プリータ地震が起き、63人が死亡、高速道路が倒壊した。1994年にはこの断層の南部でノースリッジ地震(M6..7)が起きて57人の死者を出し、やはり高速道路が倒壊した。

 先週4日と5日にも、ロサンゼルスの北240キロのところでM6.4とM7.1の地震が起きた。都会から離れた砂漠地帯なので、幸い被害は軽微だった。

 サンアンドレアス断層は「札付き」の長大な活断層なのである。

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