島村英紀『夕刊フジ』 2019年7月5日(金曜)。4面。コラムその304「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

北陸四県の県庁所在地の名を冠した大地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「北陸4県「県庁所在地」の名を冠した大地震、すべて6月に発生…」

 北陸地方で県庁所在地の名前を冠した地震が、すべて6月に起きている。1964年6月に起きた新潟地震、1948年6月に起きた福井地震、1799年6月に起きた金沢地震である。

 地震計が世界中に普及した1930年代ごろから、地震学の最初のテーマは地震が起きる季節や時刻との関係だった。

 たとえば南海トラフ地震の先祖はいままで13回知られているが、夏には一度も起きていない。うち5回もが12月に起きた。あとも秋から冬までに起きているのだ。

 だが、結局、この問題は解けていない。現在の地震学でも、北陸の大地震がなぜ6月に集中して起きたか、南海トラフ地震がなぜ夏には起きないのかは分からない。

 新潟地震では地震史上で最大のコンビナート火災を起こして石油タンクが12日間も燃え続けた。東京消防庁や米軍の応援まで得てようやく鎮火した。この地震では26名がなくなったほか、開通直後だった市内の昭和大橋が崩落したり、液状化で4階建ての県営川岸町アパートが倒れた。

 福井地震では、福井平野の北部では98〜100%もの家が倒れてしまった町や村があった。このため、気象庁では震度階に7を付け加えることになった。それまでは震度は6までだったから、最強の震度を足したことになる。

 金沢地震では21名の死者のほか、数千軒の家が壊れた。

 金沢地震はM6クラスの内陸直下型地震だと思われているが、激震は煙草(たばこ)を3服吸う間続いたという言い伝えがある。いくらなんでも、M6クラスの地震がそれほど長く続いたとは考えられないから、すぐあとに来た余震を含めたのに違いない。

 ところで、北陸地方の4県で県庁所在地の名前を冠した大地震が起きていないのは富山だけだ。だが市内には「呉羽山(くれはやま)断層帯」が南北に走っていることが知られている。

 この呉羽山断層帯は、全国を対象にした活断層調査で見つかっていたものだが、精査したら1キロ以上も位置がずれていた。

 全国を対象にした活断層調査は、航空写真を見て山筋や川筋が食い違っているかどうかで調べる。この方法で、日本全国で2000あまりの活断層が見つかったと言われている。この断層も2002年に発行された「都市圏活断層図」に示されていた。

 だが、その後、2012年に富山市が地震探査や重力探査を行った結果、その都市圏活断層図に示された位置より、沿岸部の同市日方江地区で約750メートル、さらに南下した国道415号付近では約1100メートル、いずれも西側にあることがわかった。

 いままでの活断層の調査はかくもずさんなものなのだ。地震が起きて初めて活断層が明らかになったり、地震が起きてもなお活断層絡みであるかどうか分からない例も多い。

 いずれ呉羽山断層帯が大地震を起こすかもしれない。そうなったら北陸4県で県庁所在地の名前がついた地震が揃うことになる。もちろん、いまの地震学では、この地震が起きるかどうかは分からない。

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