島村英紀『夕刊フジ』 2018年11月30日(金曜)。4面。コラムその276「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

噴火が頻発した「厄年」
『夕刊フジ』公式ホームページの題も同じ

 「厄年」とでも言わなければならないほどの年がある。

 日本では1854年がそうだ。いま、恐れられている南海トラフ地震の「先祖」である安政地震は32時間後にまたもや大地震が起きた。大地震が東西二つに分けて次々に起きたのだ。地獄の日々だった。

 だが、地震の被害はその国か、せいぜい隣接国どまりだ。他方、大規模な火山噴火は世界中に及ぶことがある。

 かつてインドネシアのクラカタウ火山が535年に大噴火した。この噴火で火山灰が成層圏まで吹き上がり、偏西風に乗って世界中にばらまかれてしまった。このため世界中で日照時間が減って気候が変わり、冷害が起きた。欧州の平均気温は過去2000年間で最も寒いものになった。

 しかし、影響があまりに大きいのでインドネシアの噴火だけではないのではないか、メキシコか米国カリフォルニアの噴火ではないかと思われてきた。

 この11月になって、スイスの氷河の氷を調べた科学者は、この大災害のもうひとつの「元」を探り当てた。それは1年後の536年に起きた北大西洋のアイスランドで起きた大噴火だった。

 英ノッティンガム大学と米メーン大学気候変動研究所の科学者。スイスアルプスのニフェッティ峰氷河で過去2000年あまりの大気汚染物質を特定した。氷河は毎年積み重なるので、中に歴史が詰まっている。

 アイスランドには先住民族はおらず、9世紀になって初めてノルウェー人が入植した。途中で英国に寄って海岸近くの英国人を「拉致」して移民に加えたという。それより前は人が住んでおらず、噴火の歴史は知られていなかった。

 これらの噴火のせいで、東ローマ帝国の衰退が起き、イスラム教が誕生し、中央アメリカでマヤ文明が崩壊し、少なくとも四つの新しい地中海国家が誕生し、ペストが蔓延したことなど、人類にとっての大事件が次々に引きおこされた。

 欧州では、これらの火山噴火が引き起こした経済の衰退から回復して上向くまでに30年もかかった。

 この研究では興味深いことも分かった。大気中の鉛粒子の濃度が上昇していたのだ。鉛は銀の精錬に使われていた。つまり鉛粒子の増加は、貨幣を鋳造するために貴金属の需要が再び増大したことを意味していた。経済が上向くとともに、貨幣の需要が増えたのだ。

 535年のインドネシアの噴火では、世界的な影響を及ぼしただけではなく、地元にあった高度な文明が滅びてしまった。カラタン文明である。

 だが地球の歴史からいえば、人類が生まれてからの歴史は4、5万年だが、大規模な火山噴火の歴史はずっと長い。

 人類が生まれてからも、文明を滅ぼしてしまうほどの大噴火が起きてきた。

 現に、縄文時代の遺跡は東北日本や北海道にしか出ない。それは7300年前に起きた九州南方の大噴火で西日本の縄文文明が滅んでしまったからだ。

 日本やほかの国で、これから未来永劫に大噴火がない、ということは地球物理学的には考えられない。いつかは大噴火が起きるにちがいない。

この記事
このシリーズの一覧


島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



inserted by FC2 system