島村英紀『夕刊フジ』 2018年1月5日(金曜)。4面。コラムその230「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

自然災害で最も嫌なのは「地震」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「自然災害で最も嫌なのは「地震」 日本でも増えてきている豪雨や竜巻」

 昨年末、クリスマスの季節だというのに、フィリピン南部のミンダナオ島が台風に襲われて被害が拡がった。死者行方不明者数は450人を超えた。一時は7万人が避難した。

 フィリピンは台風銀座で、例年平均して20もの台風に見舞われる。だが、人口2000万人のミンダナオ島を台風が直撃したのはまれだ。

 このフィリピンの台風災害を入れなくても、ある大手の再保険会社の統計では、2017年の損害補償額はその前年の2倍以上に達し、過去3番目に大きな額だった。

 損害補償額を押し上げたのは米国東部やカリブ海の島々を襲ったハリケーン、「ハービー」と「イルマ」、「マリア」の被害だった。

 プエルトリコなど貧しい国でのハリケーンの被害は大きく、まだ電力復旧のめどさえたっていない。壊れた家の復旧はまだ遠い。キューバも大きな被害を出し、国家評議会議長の交代がそのために遅れているほどだ。

 ちなみにハリケーンは台風と同じものだ。大西洋にあるものをハリケーン、インド洋のものをサイクロンという。

 地球温暖化の結果として、「気象が凶暴化」する。台風やハリケーンがより大きくなり、日本でも、いままでにはほとんどなかった豪雨や竜巻が増えてきている。日本付近の海水温が上がったために、台風が海水からもらって成長するエネルギーが大きくなり、台風が日本に近づいても弱まらず、なお大きくなっている。

 ところで、2017年の保険金支払では南北アメリカ大陸が最大の支払になった。カリブ海地域や米国南部を襲った複数のハリケーンのほか、メキシコでの二度の大地震、米国カリフォルニア州の山火事が、いずれも南北アメリカ大陸であったためだ。このほか、世界各地で自然災害が起きて支払が行われた。

 2017年では不幸中の幸いもあった。それは災害の被害額は増加したものの、死者数は上昇が見られなかったことだ。2017年の災害で1万1000人以上が死亡、あるいは行方不明になったが、これは2016年と同水準だった。

 災害による死者数では地震による死者が、毎年、圧倒的に多い。たとえば国連が過去20年間に世界で起きた自然災害を数えたら、1996年〜2015年の20年間に自然災害で死亡した135万人のうち半分以上の75万人が地震によるものだった。

 2017年の場合は、地震による死者数が例年より少なかった。それでもメキシコの二回の地震で1000人近くがなくなった。

 自然災害には、地震や火山噴火のほか、洪水や土砂崩れ、熱波、暴風雨といった気候変動に関連した災害もある。

 どれも怖い。だが、台風はだんだん近づいてくるのが分かる。豪雨や洪水もいきなり、ということはない。

 それに比べて、突然、不意打ちで起きる地震が、自然災害のなかでももっとも嫌なものに違いない。

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