島村英紀『夕刊フジ』 2017年11月17日(金曜)。4面。コラムその224「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地下核実験が誘発する「山はね」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「北に各国ピリピリ… 地下核実験が誘発する「山はね」、自然地震との見分けは至難の業」

 北朝鮮が次の核爆発実験をやるのではないかと、各国がピリピリしている。

 9月以来、マグニチュード(M)2.7やM3.2の地震が起きるたびに騒ぎが続いている。いずれも北朝鮮北東部の核実験場の近くだ。

 地震の原因が核実験なら7回目となるが、核実験ではなくて自然地震だと結論され、各国が胸をなで下ろしている。

 過去の核実験では、いずれもM4以上の振動が観測されていたから、これらの自然地震はずっと小さい。

 じつは地下核爆発は、かつて旧ソ連でも、米国のネバダ州やアラスカ州でも、さかんに行われた。

 旧ソ連で、いつ、どんな規模の地下核爆発を行うのかは、当時の西側諸国の重大な関心事だった。もちろん、旧ソ連は、これらの情報を明かさない。

 旧ソ連の核実験は、北極海にあるノバヤゼムリャ島で行うのが常だった。このため、地理的に近いノルウェーに、このノバヤゼムリャ島の核実験を探知するための特別の地震観測網(NORSAR)が設置された。

 この観測網は当初の目的を失ったいまでも動いているが、感度の高い地震観測網として、近くや遠くの地震の観測を行っている。

 また、地震学の知識を動員して、核爆発による地面の振動を自然に起こる地震に見せかける研究も米ソ両方でさかんに行われていた。

 核実験か自然地震かを見分けるのは、いまでも至難の業である。起こす振動の周波数の違いや、起きる地震波の違いはなんとでもごまかせる。

 起きた場所、とくに震源の深さだけはごまかせない。このため、「怪しい場所」で「震源が浅ければ」核実験の可能性が高いという判断が行われる。

 ところで「炭鉱地震学」というものがある。北海道大の鉱山学の先生たちが推進したものだ。採掘の影響で、炭層の岩盤内にひずみのエネルギーがたまり、やがて破壊する「山はね」や「山鳴り」を研究する学問である。

 山はねはガス突出とともにもっとも恐れられている炭鉱や鉱山で起きる深部災害のひとつで、多くの人命を奪った。

 山鳴りはもう少し規模の小さなもので、周辺の岩盤内に発生する微小な弾性振動で耳に聞こえる。鉱山やトンネル工事現場が地下数百メートルに達したときに岩盤に亀裂が発生・成長したら起きる。山はねも山鳴りも、小さいながらも、じつは地震そのものだ。

 最近の小さな地震も以前の核実験のために実験場の坑道が崩落した「山はね」ではないかと考えられている。いちばん最近、9月3日の6回目の核実験は水爆で規模も大きかったので、坑道が崩落した可能性が強い。

 だが、自然地震だったことに安心してはいけない。地下核爆発を行った坑道が傷んでいてさらに崩壊すれば、放射能が坑道から流出することになりかねないからだ。

 これによって、かつて旧ソ連や米国がやったように、国境を越えて大気や地下水を汚染して地球を汚すことになるのだ。

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