島村英紀『夕刊フジ』 2017年10月20日(金曜)。4面。コラムその220「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

報告される「発光現象」の正体
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「報告される「発光現象」の正体 地表まで延びる岩脈、予知に使えるかは分からず 」

 いままで地震学者の多くが相手にしてこなかった現象がある。地震のときの発光現象だ。

 根拠がないわけではない。

 たとえば阪神淡路大震災(1995年)。地震が起きたのは1月17日の朝6時前で、まだ暗い時刻だった。あちこちで空が青く光ったことが目撃されている。

 だが、このときの光は地震の揺れで空中の電線が揺れてスパークしたのではないかというのが地震学者の解釈だった。

 しかし、すべての発光現象が無意味ではないのではないか、と取り組んだ研究者がいる。米国・サンノゼ州立大学と米航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターの研究者だ。彼らはいままで報告された発光現象の解明に取り組んだ。

 古いものは欧州の報告で16世紀からあった。

 2009年、大地震によって309人の犠牲者を出すなど大被害を受けたイタリア・ラクイラでは、大地震の直前、多数の住民が明るい光を目撃した。ここでは大地震が起きる数秒前に、石畳の上をちらつく直径10センチほどの炎を大勢の人が目撃した。

 また、1988年にカナダ・ケベック州を襲った地震の11日前に、発光現象の報告が相次いだ。

 報告された発光現象にはきまった形や色があるわけではなかった。地面から上昇する青みがかった炎のような光があった。地面から伸びる一瞬の閃光が最大200メートルに達したという報告もあった。また、空中を数十秒から時には数分ほど漂う光の玉などもあった。

 大地震の数週間前に発生する場合もあり、実際に揺れている最中に光ったこともあった。また、震央から160キロ離れた地点で観測された記録もあった。

 だが、世界中で発生する地震で、発光が見られたのはごく一部だった。この研究では、この少なさに注目した。

 それは、「岩脈」が地表まで続いているところだけでしか見られないことだった。岩脈とはマグマが割れ目に流れ込んで冷えて岩になったもので、多くは垂直かそれに近い角度になる。ときには地下100キロに達する場合もある。

 岩脈の下部にある玄武岩や斑れい岩に力が加わると、大量の電荷が充電される。この電荷が地下から地表に向けて一気に駆け抜けていって空中放電を起こす。このときに発光現象が起きるのだという。

 だが岩脈が地表まで延びているという条件はごくまれだ。これが発光現象が地震の0.5%もない理由だという。

 たしかに、室内実験では、ある種の岩石が押されると電磁波や光を出すことが知られている。たとえばライターや火打ち石はその仲間で、水晶もその仲間だ。

 つまり、特殊な岩が地下で押されて、それが地表の岩まで伝わったときにだけ発光現象が見られるのだ。

 ただし、地震より前に発光現象が起きて予知に使えるかどうかは分からない。発光現象が見られたのは大地震に先立つ前震によるものだったかもしれないからだ。

この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



inserted by FC2 system