島村英紀『夕刊フジ』 2017年7月28日(金曜)。4面。コラムその208「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

とばっちりで隣国に大被害
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「“とばっちり”で隣国に大被害 過去には日本で起きた地震で韓国も… 」

 普通は、地震が起きた国が一番の被害を受ける。だが、隣国で大きな地震被害が生じることがある。

 先週、エーゲ海南東部のトルコで、マグニチュード(M)6.7の地震が起きた。トルコでは約70人が病院に搬送されたが、隣国ギリシャのコス島で少なくとも2人が死亡し、120人以上が病院に運ばれた。隣国のほうが被害が大きかったのだ。

 コス島は、古代ギリシャの医者ヒポクラテスが生まれた場所として知られている。いまはエーゲ海では有名な観光地だ。

 一般には地震が少ない欧州だが、エーゲ海、ギリシャ、イタリアなど欧州南部ではアフリカプレートがユーラシアプレートと衝突しているので地震が起きる。今回の地震も、これらのプレートの衝突が起こしたものだ。

 1908年にイタリア南部のメッシーナで起きたM7.1の地震では、6万〜10万人以上が死んだ。近代ヨーロッパ史上、最悪の犠牲者の数だ。

 今回の地震が起きたところは、隣国といっても、ほとんどトルコのすぐ沖までギリシャの島々が迫っているところだ。中東からEU諸国へ向かう難民もトルコから、わずか数キロの海を越えるだけでギリシャの島に達してEUに入れることになる。

 世界のほかの地域でも、今回よりもずっと遠くても隣国に地震被害が及ぶことがある。

 1994年にボリビアの地下630キロで起きたM8.2の深発地震は、隣国ペルーで10人の犠牲者を生んだ。

 ボリビアでは地震の揺れで高層ビルのいくつかの窓ガラスが割れた程度だったが、ボリビアの西に接するペルーでは家の倒壊や地すべりが多発した。こちらの国で大きな被害を生んでしまったのだ。

 深発地震は、斜めに潜り込んでいくプレートに沿って地震波が伝わってくるから、自国ではなくてプレートが上がってくる隣国に被害を出すことがある。ボリビアはそのひとつの例だ。

 深発地震ではなくても、浅い地震で隣国に被害が及ぶことがある。津波だ。日本で起きた地震は日本海の対岸に被害をもたらした。

 1983年に秋田沖で起きた日本海中部地震(M7.7)は日本でも多大の被害を生んだ。しかし、それだけではなかった。この地震からの津波は韓国を襲った。韓国南部のウルチン原発のすぐ近くの痕跡は4メートルもの波高を記録していた。

 また1993年の北海道南西沖地震(M7.8)で発生した津波は、やはり対岸のロシアを襲って3人の行方不明者を生んだ。

 地震はもちろん「その国」のせいで起きるわけではない。だが、襲われた隣国にとっては、とんだとばっちりである。

 1983年の地震津波は幸い韓国の原発には事故を起こさなかった。

 だが、将来はわからない。日本に起きる地震でもっと大きな津波が起きて、もし韓国の原発が2011年の福島原発のような重大な事故を起こしたらどうなるだろう。そのとばっちりが偏西風や季節風や海流に乗って、日本に跳ね返ってくることがあり得るのだ。

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