島村英紀『夕刊フジ』 2016年7月8日(金曜)5面。コラムその158「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

人の手が新たな地震を生みだしているのか
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「人の手が新たな地震を生み出しているのか 二酸化炭素を地下に圧入する実験」

 この4月から、北海道苫小牧(とまこまい)市の沖で実証実験「CCS」が始まっている。二酸化炭素を地下に圧入する実験である。

 二酸化炭素ガスは地球温暖化の元凶とされている。このガスを減らすため、工業活動から出る二酸化炭素を深さ1000メートルを超える海底下に封じ込めるための実験だ。

 100-200気圧といった高い圧力で圧入された二酸化炭素は、年月がたつと水に溶け込んだり、周囲の岩石と結び付くなどして安定化するとされている。

 この実験は日本では二度目のものだ。最初のものは2003年から1年半ほど、新潟県長岡市の天然ガス田で実施した。圧入したのは合計約1万トンだった。

 長岡で圧入された深さは1,100メートルだった。液体を通さない層(キャップロック)が傘のような形をしていて、その頂上部の内側に圧入した。傘は学問的には「背斜(はいしゃ)構造」という。地層としては、ずっと深いところまで連続している。

 苫小牧での実験はずっと大規模なものだ。年10万トン以上で、能力的には年20万トンまで可能という。長岡での実験よりも1桁以上多い。

 しかし、人間が地球に何かをすることが、世界各地で地震を引き起こしはじめている。

 地震学の教科書には、「米国では西岸のカリフォルニア州と北部のアラスカ州以外には地震は起きない」と書いてある。

 しかし情勢は変わった。2014年6月にはシェールガスの採掘がさかんな米国南部にあるオクラホマ州で起きた地震が全米一の地震回数になったのだ。このほか、米国の東部やカナダなど、地震がなかったところでも地震が起きだしている。

 これらはいずれも、深い穴を掘ってシェールガスの採掘を始めてから地震が起き出したものだと考えられている。シェールガスの採掘には水圧破砕法が使われる。化学薬品を含む液体に高圧をかけてを地中に圧入する手法だ。

 また、地震が起きなかったオランダでも天然ガスの採取によって地震が起きて騒ぎになっている。

 そのほか、世界各地のダムで、貯水後に、いままで起きていなかった地震が起きだしたことも知られている。1967年、インドでは死者200名弱を出した大地震が起きた。ダムの底から水がしみ込んでいって起こしたものだと思われている。

 じつは、長岡で二酸化炭素の圧入実験をした長岡ガス田は、後に起きた新潟県中越地震(2004年)の震央から約20キロ、新潟県中越沖地震(2007年)のときにも反対側にやはり20キロしか離れていないところだった。新潟県中越地震はマグニチュード(M)6.8で68名の死者を生み、中越沖地震もM6.8で死者15名だった。

 二酸化炭素を地下に圧入する実験は日本に限らず、米国、ノルウェーなど世界の14ヶ所で行われている。最終的には一ヶ所で年に80万〜100万トンを圧入する計画だ。

 日本に限らず世界のどこかで、被害を起こすような地震が起きなければいいのだが。

この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



inserted by FC2 system