さる11月、ミャンマーで大規模な地滑りが起きて100人以上が死亡した。
ミャンマーの北部カチン州のヒスイ鉱山。ここではヒスイの採掘がさかんに行われてヒスイの世界有数の供給地になっている。
主な輸出先は中国だ。ヒスイはかつて孔子が徳の象徴とたたえた宝石で、中国では「玉(ぎょく)」と呼ばれ珍重されてきた。このため中国ではほぼ枯渇してしまった。
ミャンマーの地滑り事故は採掘に伴って廃棄された岩や土の約60メートルもの高さの山が崩れて発生した。採掘の鉱夫が寝泊まりしていた70棟の小屋が土砂にのみ込まれたのだ。
ここのヒスイの輸出額は貧困国ミャンマーのGDPの半分近い。だが利益の大半は国を支配してきた軍人や元軍事政権関係者のものになっている。
採掘は荒っぽい。ブルドーザーが家々の下にある土をえぐりとるため、地元民の家は次々に傾いていっている。このブルドーザーは国の支配層が所有するものだ。
ヒスイには限らない。ミャンマーはルビーの世界的な産出国でもある。今月はじめにはクリスティーズ香港のオークションでミャンマー産ルビーが史上最高額、22億円で落札された。このほか、近隣のタイ、ベトナムなどでもルビーが採掘されている。
これらの宝石類を生むのは変成(へんせい)鉱床といわれるものだ。マグマが地下から押し上げてきたときに受ける熱と圧力によって周囲の岩石が変化して新しい鉱物になったもので、世界でも特定のところにしか出来ない。ルビーだけでなく、ヒスイもラピスラズリやエメラルドも、やはり変成鉱床が作られたときに出てくるものだ。
これらの変成鉱床は、インド亜大陸がユーラシアプレートに衝突したことによって作られた。
インド亜大陸は、5億年前には南極大陸と一体の大陸の一部だった。オーストラリアもアフリカもやはり一体の大陸で、この大陸は「ゴンドワナ超大陸」といわれるものだった。
その後、この超大陸はオーストラリアやアフリカやインド亜大陸に分裂して北上した。
インド亜大陸は赤道を越えていまの場所にまでやってきた。インド亜大陸は、その後も北に動き続けている。インド亜大陸とユーラシアプレートの衝突でまくれ上がってしまったヒマラヤ山脈は、いまだに毎年1センチメートルずつ高くなっているし、ネパールやパキンスタンや中国南部で大地震を起こしている。
さる4月に起きたネパール大地震をはじめ、2005年には大地震がパキスタンを襲って約10万人の死者を生んだ。また2008年には中国南西部で四川大地震が起きて9万人以上がなくなった。
一方でインド亜大陸の衝突による高い圧力や熱で変成鉱床ができ、地下では宝石も作られたのである。
ヒスイもルビーも、そして多くの宝石は貧しい国から採掘されている。採掘の手法は多くの人手を要する人力産業で、貧しい鉱夫たちが掘り出して、豊かな国の人たちが消費する構図になっている。
地震だけではない。プレートは罪作りなことを重ねていると言うべきなのだろう。
(写真はミャンマー(ビルマ)から清時代の中国に原石が輸入されて加工されたヒスイ(翡翠)の香炉。見られるとおり、ひとつの原石から彫刻されている。東京・上野の国立博物館に飾ってある。2016年1月に島村英紀撮影)
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