島村英紀『夕刊フジ』 2015年8月28日(金曜)。5面。コラムその117 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

月の誕生をめぐる、惑星の大衝突
『夕刊フジ』の公式ホームページの題は「月の誕生をめぐる惑星の大衝突 ”ジャイアントインパクト”」

 木星に行って空を見上げると「月」が67もあるはずだ。

 地球には、もちろん月はひとつしかない。だが、別の月を探す研究も行われている。

 大きなものならいままでに見つかっているはずだから、いま探しているのは肉眼では見えない「月」である。

 最近の研究から、月のように地球を周回している「第二の月」が見つかった。直径は約3メートル。2006年に発見されたが、その後1年あまり地球の周りをまわってから、なにが気に入らなかったのか、はるか宇宙に去っていってしまった。短い期間だけの「第二の月」だったことになる。その後は見つかっていない。

 50年に一度くらいはダンプカーくらい大きな「第二の月」が出現する可能性があることも分かった。洗濯機程度の大きさの「第二の月」は望遠鏡の性能がよくなれば、もっと発見できるのでは、と思われている。

 宇宙を飛び回っている小惑星や微惑星が、飛んできた角度がちょうど地球の引力につかまる角度だと「第二の月」になる。

 もしもっと角度が急だったら、流れ星になって地球の大気圏に突入して燃え尽きたり、一部が隕石になって地球に落ちてしまうのである。

 じつは月そのものも、どうして「月」になったのか、まだ完全に決着はついていない。

 この「第二の月」と同じように別の場所でできた天体が地球に接近して捉えられたとする「捕獲説」もあり、そもそも地球と一緒に作られた「兄弟説」もあった。太陽系全体はいまから46億年ほど前、同時期に作られたことが分かっているので、兄弟説ももっともらしかった。また原始地球は高速で回転していてその一部がちぎれて月になったとする「親子説」もあった。

 しかし最近では「ジャイアントインパクト説」がいちばん有力になっている。火星くらいの大きな原始惑星が地球に大衝突して、飛び散った破片の一部が地球をまわりながら月を形成したとする説だ。

 それ以外の説は、月から採ってきた岩石の分析など最近の研究から根拠が怪しくなってしまった。たとえばアポロ計画で月に置かれた地震計のデータから月の核の大きさが分かり、「兄弟説」では説明できないくらい核が小さいことが分かった。

 「捕獲説」は可能性がなくはないが、飛び込んでくる角度がちょうど地球の引力につかまる、ごく微妙なときだけなので可能性が低い。

 もし「ジャイアントインパクト」が本当なら、すさまじい大衝突が起きていたことになる。

 もう一度「ジャイアントインパクト」が起きたらどうなるだろう。

 先週、米航空宇宙局(NASA)が声明を発表して「巨大な小惑星が来月にも地球に激突し、米大陸の大部分が壊滅する」という噂をうち消した。この噂がネットやB級ニュースサイトで拡散していたからだ。こんな大きな天体が近づいているのならNASAが観測しているはずだというのが根拠である。

 目で見えるほどの、もうひとつの月ができることは当分、なさそうである。

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