島村英紀『夕刊フジ』 2015年8月14日(金曜)。5面。コラムその115 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

数千キロの旅の末、発見されたマレーシア機

 昨年3月から行方不明になっていたマレーシア航空370便の残骸がインド洋にあるレユニオン島の海岸に流れ着いた。

 レユニオン島を知っていた日本人はほとんどいないだろう。だが、私たち地球物理学者には有名なところなのだ。

 レユニオン島はインド洋の西の端に近いところ、マダガスカル島のすぐ東にある。

 地球物理学者に有名な理由は、ここの地下深くからプリュームという溶けた溶岩が上がってきているからだ。「源泉」は2000キロメートルも深いところにある。

 プリュームが上がってきているところはハワイなどほかの場所でも知られているが、ここは特別に規模が大きい。

 約6600万年前、インド亜大陸が昔あった大きな南極大陸から分れて北上した。そのインド亜大陸がレユニオンの上を通過したときに、下にあるプリュームから玄武岩が大量に噴き出た。

 いまインド中部に広く拡がっているデカン高原は面積が日本全土の約1.5倍、50万平方キロもある。これはプリュームが出てきて作った巨大な溶岩台地なのである。地表が大規模に割れて途方もない量の溶岩が地表に噴き出てきたものだ。

 いまでもレユニオン島のプリュームは活動を続けていて、世界有数の火山が噴火を続けている。この火山はユネスコの世界遺産でもある。

 インドが南極大陸から分れたときに、同じようにアフリカもオーストラリアも分れた。こうしてインド洋が出来た。

 話はがらりと変わる。「ゴルゴ13」が数百メートルも先のものを狙うときに、ゴルゴ13の漫画には書いていないことがある。それは北半球では撃った弾はかならず右にそれるので、それを補正しないと命中しないことだ。南半球では、逆に左にずれる。これは地球が自転しているせいで、弾が空中を飛んでいる間に地球が回ってしまうから着弾点がずれるのだ。

 これを地球物理学では「コリオリの力」が働いたという。コリオリとは、19世紀にこの力を発見したフランス人科学者ガスパール=ギュスターヴ・コリオリの名前から来ている。

 この力は地球に吹く貿易風や偏西風にも作用する。そして、海上を風が吹くことによって海水が引きずられて海流が生まれる。

 かくて、太平洋やインド洋などには、大洋全体をめぐる大規模な海流が出来る。北半球の太平洋では時計回り、南半球にあるインド洋では反時計回りになる。

 レユニオン島で見つかったマレーシア航空機の残骸も、こうしてインド洋のどこかから海流に乗った数千キロメートルの旅をして流れ着いたものにちがいない。

 インド洋にかぎらず「太平洋ゴミベルト」という言葉があるように、太平洋でも大量の残骸やゴミが海流と風に乗って広い大洋を循環している。東日本大震災で流れ出した小型船やバレーボールが北米大陸の西岸に流れ着いたのも同じだ。

 世界の海には、人知れず流れているものが、まだたくさんあるのだ。

右の写真は、岩手県・陸前高田から流されて2年後に米国西岸カリフォルニア州クレセントシティに無人のまま漂着した県立高田高校海洋システム科の実習船「かもめ」。発見の半年後に米国から返され、一時、国立博物館(東京・上野)の本館玄関(=写真)に展示されていた。なお、漂流中に付着したカキやフジツボは除去してある。(島村英紀撮影)

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