先月の30日夜、北海道から沖縄県まで47都道府県で震度1以上の揺れを観測した地震があった。全部の都道府県で有感になったのは初めてのことである。
この地震は小笠原諸島近海を震源とするマグニチュード(M)8.1という大きな地震で、震源の深さは約700キロメートルという深いものだった。この種の深い地震は深発(しんぱつ)地震と言われる。
そもそも地震はプレートの中とすぐ近くでしか起きない。世界でもプレートがたまたま深くまで潜り込んでいるところだけ、こういった「深発地震」が起きる。
起きる場所は今回のような日本南方の海の深部のほか、日本海の深部、南太平洋のトンガ・ケルマデック地域や、サイパン・グアム島の地下や、南アメリカの太平洋岸の地下など、ごく限られたところだけだ。
世界でいちばん深い地震は今回くらいの深さで起きる。とても深いようだが、地球の半径でいえば、せいぜい1/10くらいまでしか起きない。
では、その限界の深さはどうやって決まっているのだろう。それは「海洋プレート」が地球の中に潜り込んでいっている下限なのである。
いや、正確に言えば、深発地震が起きることによって、そこまで海洋プレートが潜り込んでいることが知られるようになったのだ。
たとえばロシア東部の沿岸の地下700キロメートルのところで深発地震が起きたことがあり、このことから太平洋プレートが日本海溝から滑り台のように地球の中に潜り込んでロシア東部の地下にまで達していることが分かったのである。
だが、世界の深発地震がいつもこの深さまで起きているわけではない。
たとえば同じ太平洋プレートでもアリューシャン海溝では地下200 - 300キロメートルまでしか深発地震が起きていない。つまり太平洋プレートはこの辺までしか潜り込んでいないことが分かっている。
また、やはり海洋プレートであるフィリピン海プレートは南海トラフから西南日本の地下に潜り込んでいるが、その深さは約100キロメートルまでにしか達していない。
これは、フィリピン海プレートやアリューシャン列島での海洋プレートが、海溝から潜り込みはじめたのが比較的新しい時代からだったことを示している。
ところで、もっとへんな深発地震の起きかたをしている場所がある。
ニュージーランドの北にあるニューヘブリディーズ海溝や南米の西沖にあるペルー・チリ海溝では、潜り込んでいるプレートが途中で切れて離れてしまっているのではないかと思われている。地震が途絶えている深さがあるのだ。
じつは、深発地震がなぜ起きるのかはまだ学問的にわかっていない。浅い地震のように、押された岩が摩擦の限界を超えて起きるメカニズムは起きるはずがないものなのだ。温度も圧力も高い深発地震が起きる深さでは岩の性質が変わってしまうからだ。
深発地震は今回の地震に限らず、Mが大きくても大きな被害を生むことはない。しかし深発地震にはまだナゾが多いのである。
この記事は
このシリーズの一覧は