島村英紀 『完全解説 日本の火山噴火』 (秀和システム)
本の奥付は2017年4月1日3月17日発行)
「前書き」
と「目次」と「私が撮った写真」と「読者からの反響」

240頁。A5判。 ISBN 978-4-7980-5008-9 C1044。1600円+税。秀和システム
(これは本の表紙です。この絵をクリックすると表紙が拡大されます)


 この本のまえがき

 日本列島にある火山はプレートの衝突によって作られた。プレートの衝突が地下でマグマを生み、それが地表に上がってきて起こすものが火山の噴火なのである。日本では4つものプレートがせめぎ合っているから、世界でも珍しい火山国になっている。世界の陸上にある活火山の7分の1は、この狭い日本にあるのだ。

 火山噴火は日本人をたびたび苦しめてきた。私たち日本人は、これからも大きな規模の噴火を覚悟しなければなるまい。

 日本にある火山はさまざまである。マグマの粘性(粘り気)や噴出物による違いで被害も大きく変わってくるので、噴火の様式も火山ごとに違う。そのためにも、いま日本にあるそれぞれの火山はどんなものか、過去にどんな噴火をしたかを知らなければならない。

 この本では、それぞれの火山について、その火山爆発指数、噴火警戒レベル、過去の人的被害、近年の火山活動指数の4項目について危険度を設定した。

 日本には火山が多く、活火山と認定されているものだけでも110ある。

 この110の火山のうち、危険度を勘案して50の「常時監視」の火山が選ばれて、24時間監視が行われている。それぞれの火山のデータはリアルタイムで、管区気象台に送られている。この常時監視の火山は、観測体制の充実とともに、毎年のように増やされている。

 また、このほかに「噴火警戒レベル」が2007年以来設定されている火山が38ある。これは常時監視の火山のなかでも危険だと思われる火山に設定されているものだ。

 しかし、この本に書いたように、火山の観測体制は十分ではないものが多く、また「噴火警戒レベル」も後追いが多く、本来の目的である事前の警告というにはほど遠いという問題がある。

 これらの活火山のうち、どれが次に噴火するかはわからない。だが、「いつ噴火してもおかしくはない火山」が多いのも、日本の活火山の特徴なのである。

 残念ながら、いまの学問では噴火の予知はまだ研究途上である。噴火の前兆がまったくない噴火もないが、「前兆」らしきものがあっても噴火しない例も多い。いずれにせよ、何ヶ月も前から前兆が出ることは、むしろまれである。

 日本列島の地形の多くは火山が作ったものだし、日本でいちばん有名で観光客も多い富士箱根伊豆国立公園をはじめ、国立・国定公園のうち多くや、多くのスキー場のスロープも火山が作ったものである。また温泉はいうまでもなく火山と同じ「根」である地下のマグマが地下水を暖めて作ったものだ

 火山の噴火は、数十年から数百年に一度というものが多い。つまり、過去の噴火を忘れて人々が住み着いてしまったり、観光やスキーに訪れたりする火山も多い。それぞれの火山で、過去にどんな噴火があったのか、それを知ることは、その火山を訪れようとする人が最低限、知っていなければならないことであろう。

 じつは、日本の気候を作っているのは火山である。たとえば冬に日本海沿いで大雪を降らせ、太平洋岸で乾いた空っ風を吹かせるといった日本の気候は火山が作ったものなのだ。日本人が風光を愛で、登山や温泉を楽しみ、四季を味わえるのも火山のおかげである。

 日本に住む私たちは、プレートが恵んでくれた恩恵を楽しむだけではなくて、火山とともに生きていくという知恵も覚悟も持たなければならない。

 じつは日本の火山は、理由はわかっていないがこの100年間は、静かな「異例の」状態が続いている。

 しかし、この異常さはいつまでもは続かない。日本の火山の活動は、とくに東日本大震災(東北地方太平洋沖地震、2011年)をきっかけにして、「普通」に戻って不思議ではないのだ。

 火山列島日本。この本で火山を概観しながら、日本人が知るべき火山について、火山噴火と噴火対策の知識について学んでほしい。

 この本の目次

まえがき
序章 写真で見る近年の日本の火山噴火

第1章 火山が噴火するとどうなるのか
単成火山と成層火山の違い
 なぜマグマは噴火するのか
 プレートと火山の関係
 東日本火山帯と西日本火山帯
 マグマが地表に現れるまで
 火山の5つの噴火様式
 マグマの種類と粘性
 噴火の途中でマグマの性質が変わることも
 噴石の恐怖
 岩屑なだれと火山泥流
 有毒ガスの恐怖
 水蒸気爆発とマグマ水蒸気爆発
 火山の噴火の規模を表す指標
 日本の代表的な大噴火
 鳴りをひそめた日本の火山
 大噴火を超えるカルデラ噴火
 カルデラ噴火で滅びた文明
 阿蘇カルデラはどうやって作られたか
 屈斜路もカルデラ噴火で作られた
 巨大大地を作った謎の噴火
 プリューム・テクトニクスとはなにか
 火山災害でもっとも恐ろしいものは
 火山灰がおよぼす人体への影響
 火山灰による交通網への影響
 文明が進歩すると自然災害には弱くなる
 登山客を襲う噴石の恐怖
 二次災害にも注意
第2章 噴火の備えはどうなっているのか
日本はなぜ火山が多いのか
 国によって違う活火山の定義
 陸上より多い海底の火山
 地震・火山とプレートの関係
 休火山と死火山がなくなったのは?
 常時観測火山とは
 噴火警戒レベルとは
 噴火警戒レベルの決め方の問題
 火山をどう監視するか
 いまだ貧弱な火山の観測体制
 噴火予知は誰が行っているのか
 有珠山の噴火予知が成功した理由とは
 噴火予知はその火山の経験だけが頼り
 桜島や浅間山の噴火予知の例
 岩手山や磐梯山の噴火予知失敗の例
 御嶽山の噴火はなぜ予知できなかったのか
 経験のない火山の予知の難しさ
 ハザードマップの問題
 観光地とハザードマップ
第3章 北海道の火山噴火を検証する
 北海道の火山分布
 有珠山
 北海道駒ヶ岳
 十勝岳
 樽前山
 アトサヌプリ
 雌阿寒岳
 大雪山
 倶多楽
 恵山
 北海道のその他の活火山
 北方領土の火山
第4章 東北地方の火山噴火を検証する
 東北地方の火山分布
 吾妻山
 磐梯山
 岩手山
 安達太良山
 岩木山
 秋田駒ヶ岳
 鳥海山
 八甲田山
 十和田
 秋田焼山
 栗駒山
 蔵王山
 東北地方のその他の活火山
第5章 中央日本の火山噴火を検証する
 中方日本の火山分布
 御嶽山
 浅間山
 那須岳
 焼岳
 日光白根山
 草津白根山
 新潟焼山
 弥陀ヶ原
 乗鞍岳
 白山
 中央日本のその他の活火山
第6章 伊豆地方の火山噴火を検証する
 伊豆地方の火山分布
 富士山
 箱根山
 伊豆大島
 三宅島
 新島
 八丈島
 青ヶ島
 伊豆東部火山群
 神津島
 硫黄島
 伊豆地方のその他の活火山
コラム 中国地方の火山噴火を検証する
第7章 九州・沖縄地方の火山噴火を検証する
 九州・沖縄地方の火山分布
 桜島
 阿蘇山
 雲仙岳
 霧島山
 諏訪之瀬島
 鶴見岳・伽藍岳
 久重山
 薩摩硫黄島
 口永良部島
 九州・沖縄地方のその他の活火山
参考文献
参考サイト
索引


 この本に載せた、私(島村英紀)が撮った写真
P45扉:噴煙を上げる桜島の足許にある東桜島小学校
P62:東桜島小学校(上と同じ写真)
P69扉:噴煙を上げる十勝岳
P83:十勝岳(上と同じ写真)
P91:雌阿寒岳
P101扉:吾妻山空撮
P107:吾妻山空撮(上と同じ写真)
P125:八甲田山空撮
P163扉:富士山と宝永火口
P170:富士山と宝永火口(上と同じ写真)


 読者の感想

2017年12月:日本人には火山は身近な存在ですが、よく分かっていないのではないでしょうか。この本は、日本に何故火山が多いのか、そのエネルギー源・分布と爆発の歴史・種類など基礎的なことを教えてくれます。有珠山・桜島・浅間山など火山噴火の予知が如何に難しいかを率直に説明されています。一方、温かい温泉や綺麗な湖・高原に恵まれ、登山・スキーなど多くの火山の恩恵も受けています。 それだけに、近くの住民・観光客は噴火・地震に対する備えが必要であることも教えています。

2017年12月写真が豊富でインパクトが強いうえ、本文もとてもよく調べて書いてあり、理論的でわかり易いですね。
圧巻は、ひとつひとつに添えられている著者からのメッセージだと思います。面白いアイディアの構成で、メッセージの内容も、まるで著者がそこに行ったことがあるかのように具体的。とても面白いし、実用的な本だと思いました。


島村英紀『完全解説 日本の火山噴火』(秀和システム)
島村英紀『富士山大爆発のすべて――いつ噴火してもおかしくない』
島村英紀『地震と火山の基礎知識―生死を分ける60話』
島村英紀『人はなぜ御用学者になるのか--地震と原発』へ

島村英紀・著書一覧へ
島村英紀『直下型地震−−どう備えるか』へ
本文目次トップに戻る
島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る



inserted by FC2 system