2001年度後期の講義「地震と人間」全学教育科目(対象はすべての学部)

授業科目:科学・技術の世界

講義題目:地震と人間

講義期間:2001年10月〜2002年2月(2学期) 毎週火曜日5時限


授業の目標:

 地震をはじめ、火山噴火、台風、津波、水害、地すべり、豪雪と日本は自然災害の多い国だ。昔から日本人は災害に苦しめられ、災害とともに生きてきた。阪神淡路大震災(1995年)でも6400余名の人命が失われて、被災地はまだ完全には復旧していない。

 被災した人々の心の傷や全国の人々の精神的な衝撃を逆撫でするようで気がひけるのだが、地球物理学者として私が言えることは、阪神大震災を起こした兵庫県南部地震は、日本にとっては決してめったに起きない大地震ではない。残念ながらいまの学問では、次に日本のどこを、どのくらいの地震が襲うかはわからない。兵庫県南部地震がたった一回だけのものではないとしたら、さて、現代に生きる私たちは地震のような自然災害をどうとらえ、どうともに生きなければならないのだろうか。

 これはもちろん人々一人一人が考えるべき問題ではある。しかし、ともに考えたり、それを助けるために、広い意味の文化があるのだと思う。広い意味の文化には哲学や、宗教や、科学も含まれる。それぞれの役割も影響も違うはずだが、この講義では科学の面からこの問題を考えてみたい。


到達目標:

 いろいろな意味で科学が問われている時代だ。阪神大震災以後、地震の科学や科学者について多くの批判が噴き出した。

 科学は、たとえば芸術と同じように、それを理解し支えてくれる社会の一部、つまり広範で総合的な文化の不可分の一部のはずである。一般の人も科学者も、科学と文化、科学と社会についてはもっと考えるべきであろう。

 科学者は予言者でも宗教家でもない。科学者は、それぞれの専門の領域では専門家だが、その成果を材料にして考えるのは科学者だけの役割ではない。科学者が得てくれた材料に基づいて考えるのは、科学者以外の人たち、広く言えば文化の役割なのである。

 講義としての狙いは、現代の地球科学の前線で、どんな研究が行われていてどのくらいわかっているのか、まだなにがわかっていないのかを皆さんにも知ってほしい、また、地球の将来を考えるときには、現代の地球科学の前線を知って考えてほしいことである。

 それが、地球の将来を考えて行動する人類の知恵の広がりをつくるものだし、ひるがえって学問の底辺を広げることによって、学問自身にも役立つものだと思う。

講義を受講した学生の感想文(全部の学生の全部の文章は載せきれないので、一部だけを掲載してあります)

1)伊藤 元裕 講義の感想文 今回この講義を取って、地震についての興味が非常に湧いたと思う。もともと、地学系の研究には興味を持っていたので、毎時間集中して講義を受けることができた。この講義では、様々な知識を得ることが出来た。日本の中での地震や世界の地震等について学ぶのは楽しかった。中でも特に先生の研究についての講義が印象に残っている。ビデオやパワーポイントが使われていたので分かりやすかった。必ず、見学会に行き、自分の目で海底地震計を見てみたいと考えている。  この講義で得た知識の中で一番ショックだったのは、地震予知についてだ。私は今まで今後研究が行われていけば必ず予知は可能になると思っていた。しかし、先週の講義ではそれはかなり可能性が低いものだということが分かった。非常に驚いた。破壊現象は予測が出来ないという説明は説得力があった。  前期に私は宇井先生の火山についての講義はとても面白かったが、先生の「地震と人間」もとても面白かった。地球惑星という学問はなかなか面白そうですね。絶対実験は地学実験を取ろうと思います。

2)杉山 竜司 講義の感想文 今までの講義を受けて地震に対する考えが変わりました。私は1995年の阪神淡路大震災を被りましたが、そのくらいのマグニチュードの地震が日本とその周辺では年に数回あるということで日本に住む以上安心することが出来ないと分かり、少し恐怖を感じたこともありました。今まで阪神の例もたくさん取り上げてもらい、また地震についての細かいことも分かって良かったです。

3)黒島 加菜 講義の感想文 地震のおこる仕組みについて詳しく分かりました。過去の地震についていろいろ知りましたし、観測の仕方も分かって興味深かったです。気象庁の対応や国の裏話も聞けて面白かった。特に阪神大震災や北海道南西沖は記憶に新しく、学問的な視点から見られたことは良かったと思います。

4)東 龍介 講義の感想文 自分は地震に興味があり、この講義を受けました。過去に起きた地震の大まかな情報の他、ごく一部ではあるけれども北大地震火山研究観測センターで行っている地震の研究を知ることが出来た。説明も分かりやすく面白い内容でした。

5)今野 正臣 講義の感想文 大変有意義な講義でした。普段の生活では知る機会のない研究の話等は実に面白く聞くこと出来ました。また地震で倒壊した建物の分析なども、被害しか意識していないメディアとは違い興味深かったです。

6)高橋 圭介 講義の感想文 この講義を聴いて、地震だけではなくほかの自然災害とどう付き合っていくべきか、ということを少し考えるようになった。「災害」そのものを予測することよりも「いざ災害が起こったときの被害をいかにして最小限にとどめるか」ということが重要ではないかと思うようになった。そのためには研究と行政がもっと密接に関わっていくことが重要であると思う。 ・講義自体は、資料とかが見やすくて分かりやすかったと思います。

7)西尾 宏之 講義の感想文 僕はこの講義を受けて地震についていろいろと知ることが出来ました。地震予知の話から他の国の地震状況など、幅広い話を聞くことができ、とても面白かったです。 先生が海外に調査に行ったときのビデオは、興味をそそられ面白かったです。ありがとうございました。

8)高岡 尚均 講義の感想文 先生の授業は毎回テーマがしっかりしていて、本当に分かりやすかった。地震という現象が自分が知っていた知識よりもずっと複雑な現象であることを知った。学問としても色々研究する方向があって魅力を感じた。社会的要請が強い訳でもあるし、使命感がわいて、先生がとてもうらやましく思った。

9)千葉 貞雄 講義の感想文 地震の起きるメカニズムだけでなく、過去の地震の話や、地震による災害の話や、地震予知の話など、地震にまつわる様々な話を聞くことが出来、とても面白かった。

10)横山 和弘 講義の感想文 大学の講義で理科系のものは基本的に面白いものが多い気がする。もっと専門的な知識を身につけていたら、さらに違った楽しみ方もあったのではないかと思うと少々残念だった。最後の講義では質問にも答えてもらえて良かった。 直接話すのが苦手なので、紙面での質問に講義で答えてもらえたのは良かった。

11)平井 将浩 講義の感想文 地震というものは身近にあるものだが実際には意外に地震について自分の知っていることが少なかったり、間違っていたことが分かった。この講義を通してある程度だと思うが地震のメカニズムについて知ることが出来た。 また、過去にあった地震について、大きさ、被害やその地震の特徴について知ることが出来、その内容はとても興味深かった。また、地震予知がまだ全然進んでいないということを知り驚いた。この講義を通して今まで自分が知らなかったことを多く知り、とてもよかったと思う。

12)大矢 学 講義の感想文 この講義を受けて、受ける前よりも沢山の知識を得ることができた。教授を含め、地震学者は、日々地道な研究を続けているのだなあと思った。又、地震予知も一筋縄ではいかない事も分かった。自分は日本にいる以上これからも地震と付き合っていかなければならないし、もっと知識を深める必要があると思った。

13)置塩 直史 講義の感想文 パワーポイントの図やグラフが見やすくて地震の起こるメカニズムがよく理解できました。特に海底地震計についてとても興味がわきました。実際に海底に沈める過程のビデオ映像が印象的でした。地震予知については、この授業を受ける前は容易なものだと思っていましたが、現実はとても難しいことに驚きました。今後、あいまいな地震予知には十分に注意したいと思います。

14)長能 裕範 講義の感想文 今までこの講義を11回聞いてきて地震というものに対する考え方がかなり変わったと思う。地震予知のできる範囲、できない範囲、いろいろあることが分かったが、阪神大震災クラスの地震が日本では年に1〜2回も起こっていることを考えると、なんとか予知をしようとすることはやめてはいけないことだと思った。かなり興味深い話を聞くことができて、とても満足です。

15)松浦 睦 講義の感想文 地震の調査といえば陸上で断層の調査とか地質の調査をするということは知っていたが、海底の調査というものはいったいどんな事をするのが分からなかった。この講義を聞いて海底の地震調査についてどのような事が最先端で行われているかを知ることができたし、その他にも地震についての色々な知識を得ることができた。その中には自分の今までの常識を覆すものもあった。 また、地震予知の限界といった最新の問題提起を知った。いつ地震に巻き込まれるか分からない国に住んでいるのでこのような新しい知識を得られたことは身を守ることには使えないにしろ、心構えはできたので良かったと思う。これからもお体に気をつけて頑張ってください。

16)(匿名希望*) 講義の感想文 先生の講義を通して思ったことは、結局の所、予知に100%頼ることなどできないのだから、一人一人が地震についての正しい知識を身につけ、適切な対策を普段からやっておくことが、一番の対策だと思いました。国は国で正しく必要な情報を提供するべきだと思います。 地球に生きる以上、地震・火山など自然災害は必ずあるのだから、一人一人の用心が絶対必要だと思います。先生の研究はきっといろいろな分野に役立っていくのだと思います。これからも頑張ってください。 (*:元は実名でしたが、2004年2月に不思議なメールが届いたということで、本人の希望で匿名にしました)

17)吉田 麻衣 講義の感想文 今回の講義は、毎回教科書を使って、黒板で説明・・・というのではなく、常に先生が喋っている形だったので、飽きなくて良かったと思います。でも教科書はレポートの材料になる以外は殆ど使わなかったのでちょっと勿体ないかなと思いました。でも一番興味が大きかったのは海底地震計の話でした。こんな話は聞ける機会がないので良かったです。

18)鳥谷部 祐 講義の感想文 もともと名物先生がいるときいて受けたこともあって地震への興味はあまり大きくはなかったが授業をうけて興味が湧いてきたので、また他の授業があれば受けたいと思いました。また来てください。

19)川口 恵之 講義の感想文 地震の発生はプレートのずれによるものということは知っていましたが、震源と震度の関係や地震の予知に関することについては知らないことがたくさんありました。これまでに起こった地震や地震と私達がどのように共生していかなければならないかなど学べて良かったです。

20)平岡 欣也 講義の感想文 僕は文学部だけども、地震の話には少し興味があっていろいろ気になった。が、この分野を専門的にやることはできないけれど、やはり自分の生活にも関わることであるし、広い視点で見ていきたい。話の中で、理学部と工学部の話があったが、それにかかわらず、様々な学部・学科でうまく情報を共有してやっていけるようになるのは難しいことなんだろうか?と思う。文学部であれ何であれ、知りたいものは知りたい。 ところで、出席少ないけれどレポート次第で何とかなりますか?

21)西 慧 講義の感想文 この講義を聞いてわかったのは、まず自分が地震に対して全く無知であったということ。例えば地震は世界中でよく起こっているということ、そして地震の予知は今日進んでいて、ある程度の予測なら可能だとそれまで考えていた。それは間違いだと知り、他にも地震のメカニズム、不規則性、地震は(M6レベル)どこにでも起こる可能性があるということも知った。実際問題として、予測技術の発展をただ待つだけでなく、地盤のしっかりした土地、建物の強さをしっかり考えることが我々がまずできる対策だということを念頭に置いていきたい。

『地震と人間』(2001年2学期の講義)・島村英紀・ レポート要綱
(全学教育科目 科学・技術の世界、自然の構造と仕組み)

試験の代わりに以下の題のレポートを課する。受講の評点は、「どのくらい調べて、どのくらい深く掘り下げて考えたか」(主)と一般的な出席点(従)で評価する。

テーマ:「教科書(『地震列島との共生』岩波書店)」か「副読本(『地震は妖怪 騙された学者たち』講談社)」か、あるいは「島村英紀が書いた他の本」(http://shimpc.sci.hokudai.ac.jp/shima/に本の一覧や、それぞれの本を所蔵している大学図書館の一覧がある)を読み、君たちなりの「地震と人間」についての評論をまとめること。 私の本の批判でも、本への反論でも、もちろんかまわない。

提出方式;レポートはなるべく電子メールで、直接私あてに送って貰うのが望ましい。宛先はshima@eos.hokudai.ac.jpまで。図がある場合はJPEG, GIFFなどで適宜圧縮すること。電子メールが使えない人は、通常の「A4横書きレポート用紙」で提出してもよい。なお、ファクシミリでは送らぬこと。長さは問わないが、あまり短いものは誠意を疑う。

締切:2002年2月13日(水曜)午後5時 提出先:メールの場合はshima@eos.hokudai.ac.jpあて直接送付。レポート用紙の場合は、共通教育掛前のレポートボックスに入れること。


高い評点を得た学生のレポートはこちらに。

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