今月の写真
現代芸術のオブジェに見えますが、これは悲劇が生んだ記念物なのです


まるで、近代美術館に展示してある現代芸術のオブジェに見える


しかし、そうではない。これは関東大震災(1923年)のときの火災旋風をともなった大火災で溶けて崩壊してしまった鉄柱の残骸なのである。大日本麦酒の吾妻工場にあったものだ。過去に日本を襲って史上最大の地震被害を生んだ関東地震は、10万人以上の犠牲者を生んだ。

これは、東京都墨田区の横網公園にある、震災記念堂にある。10万人を超える犠牲者の大半は焼死者であった。なかでも、ここ被服廠跡では周囲から避難してきた38000人もが火災旋風に襲われて焼死する惨事が起きた。

いま、この祈念堂を訪れる人は、ごく少ない。東京を襲う大地震は忘れ去られてしまった。

しかし、地下で4つのプレートがせめぎ合う首都圏は、じつは過去たびたび、直下型を含む大地震に襲われてきた。1923年以後の「静けさ」は、歴史的に見ても、異例なのである。

しかし、この「静けさ」は、たまたまの歴史の偶然にすぎない、この「静けさ」が破れたときに何が起きるのか、と地震学者は心配しているのである。かつて関東大震災の被害を予想して警告したことを無視されたばかりではなく、世間から迫害までされた地震学者・今村明恒の悲劇を繰り返してはなるまい。


 

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