島村英紀 『直下型地震 どう備えるか』 花伝社

「前書き」と「後書き」と「目次」など

2012年3月20日発行。花伝社。本文223頁。四六版ソフトカバー。
ISBN 978-4-7634-0629-3 C0044。1500円+税

その表紙(この絵をクリックすると拡大されます)


 この本の前書き

  2011年3月11日に東日本大震災が起きてから、この本の執筆時までに一年がたとうとしている。しかし、死者行方不明が2万人近い大災害を起こした、この東北地方太平洋沖地震について、日本人は早くも関心が遠ざかっているのではないだろうか。

 あれだけの大地震を受けて、立ち止まってじっくり考えること、そして将来も襲って来るに違いない次の大地震に、なにを、どう備えればいいのかを考えることこそが大事なのだろうが、それら必要なことが、東北地方太平洋沖地震によって引きおこされて、まだ終息にはほど遠い東京電力福島第一原子力発電所の事故の陰に隠れてしまおうとしているのではないか。それを地震学者として怖れている。

 じつは1995年に起きた阪神淡路大震災のときもそうだった。地震は1月17日に起きて、6400人以上の犠牲者を生むという、日本では約70年ぶりの震災が起きた。しかしそのすぐあと、その年の3月にはオウム真理教教団が起こした地下鉄サリン事件、そして12月に福井県にある高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」でナトリウム漏洩という重大事故があり、当時の動燃(いまの核燃料サイクル開発機構)の事故隠しもあって大きなニュースになって、地元や関係者以外の多くの日本人は、地震のことから関心が遠ざかってしまった。

 この本に書いたように、日本列島のどこを、次に地震が襲うかは分からない。

 しかし、震災と地震とは別のものだ。地震は、日本人が日本列島に住み着くはるか前から繰り返し起きてきた自然現象であり、震災は、そこに人間社会があってはじめて起きる、いわば社会現象である。つまり震災は地震と社会の接点で起きる出来事なのである。

 自然現象としての地震はこれからも襲ってくる。それを避ける方法はない。人類が起こるべき地震を制御することも不可能である。だが、震災は、備えがあれば、小さくも、また防ぐこともできるはずのものだ。

 この本にも書いたように、あいにくなことに、いままでの震災の歴史は、地震の歴史のあとを追いかけてきた歴史でもあった。大地震のたびに、いままではなかった災害が生まれてきたのである。

 今回も、原発震災という、いままでに警告されながらも備えが不十分だった原子力発電所が破壊された事故が起きてしまった。その事故の終息はいまだ見えず、解決には途方もない時間がかかる。

 今度襲って来る大地震のときに、それが大きな震災を生まないですむような備えが出来るかどうか、そこに人間の知恵が試されているのである。


 この本の後書き

 この本に書いたように、地震は弱者を選択的に襲ってきた。弱者とは、古くて弱い家に住み続けなければならない人たちや、高齢者や障害者である。

 阪神淡路大震災のときに神戸大学では39名の学生が亡くなった。そのうち37名が下宿生だった。これは神戸大学が特別に下宿生の割合が高かったのではなくて、下宿生が、古くて弱い住宅に住まわされていたからなのである。

 住宅密集地である首都圏をはじめ、各地にはまだ古い家に住み続けなければならない人たちも多い。これから襲ってくる地震で、また弱者が痛めつけられる構図が繰り返されることを心配している。

 そして、日本を襲う二つの地震のタイプのうちの片方、直下型地震のときの局地的な地震の揺れは、もうひとつの地震のタイプ、海溝型地震よりも大きいことが多い。

 このため、阪神淡路大震災で明らかになったように、もし次の直下型地震が住宅が密集している都会を襲ったら、また大震災が繰り返される、あるいはもっと巨大な震災が起きるという可能性が高いのである。

 この本に書いたように、山地が多い日本では、わずかな平地に人々が集まって都会や町を作っているのが普通だ。しかしこれらの平地は、どれも地震に弱い「わけあり」な土地なのである。

 しかも、以前は人々が住んでいなかった、あるいは住むのを避けていたところにも、住宅が拡がっている。谷を埋めたり傾斜地を削って作った宅地造成地、かつての海や沼や砂州を埋め立てた土地、川や海よりも低い低地帯・・・。都会や町は、前よりも一層、地震に弱くなっているのである。

 ここで、「前書き」の最後を繰り返さなければならない。今度襲って来る大地震のときに、それが大きな震災を生まないですむような備えが出来るかどうか、そこに人間の知恵が試されているのである。

 この本は昨年『巨大地震はなぜ起きる これだけは知っておこう』を出してくださった花伝社の平田勝社長からのお薦めで世に出ることになった。また具体的な編集作業は同社の佐藤恭介さんが手際よくやってくださった。このお二人がなければ、この本が生まれることはなかった。深く感謝したい。


 この本の目次

第1章 東北巨大地震とはどんな地震だったのだろう
第2章 直下型地震の怖さとは
第3章 首都圏を襲う直下型地震
第4章 日本で起きた内陸直下型地震
第5章 直下型地震の被害が増えている
第6章 地震予知はお手上げ
第7章 活断層はどのくらい警戒すべきだろうか
第8章 震災を押さえ込むのは人類の知恵


 (出版社による)この本のキャッチコピー

直下型地震についていま分かっていることを全部話そう
海溝型地震と直下型地震
直下型地震は予知など全くお手上げ
地震は自然現象、震災は社会現象
大きな震災を防ぐ知恵、地震国・日本を生きる基礎知識


 読者からの反応


2012.3.18 「気象庁のマグニチュードは問題がありますので早急に変更すべきだと思います」(気象庁のOBから)

いろいろ考えながら読んでいます。

気象庁のマグニチュードは問題がありますので早急に変更すべきだと思います。気象庁がどう考えているのかも現在は分かりませんが、出来るだけ早く変えないないとならないと思います。

東京が大震災に遭った場合、日本は本当に大変なことになります。 対策は何もとられていない現在、とても怖いです。

何か動きがあってもいいと思うのですが今のところ何も見えていませんね。


2012.3.27 「もっとセンセーショナルなタイトルにして行政に本格的な地震対策の必要性を感じさせるようにしても良かったのでは」

『直下型地震 どう備えるか』を読みました。ここのところ、毎日のようにテレビに地震速報が出ますが、東京が地震多発箇所であることを改めて認識し、興味深く読みました。島村さんの考えとは違うかも知れませんが、もっとセンセーショナルなタイトルにして行政に本格的な地震対策の必要性を感じさせるようにしても良かったのではないかと、思っています。

なぜ、いまの場所に首都を置くことになったのかについて書いてありますが、私の意見の追加です。

徳川実記では「秀吉に家康が命じられた」とありますが、僕は明治維新の時、金のない政府(大久保利道)が前嶋密の建議で、「狭い大阪でなく官庁を収容できる大名屋敷が多数残っている江戸が良い」と判断してしまったことに直接の原因があると思います。実際そういう問題はあったのでしょうが、幕臣であった前嶋にとっては江戸がゴーストタウン化している事に寂しさがあったのではないでしょうか。


この本の46頁。前代の善光寺地震?に書いた八ヶ岳・天狗岳の写真はこちらに。


牧師の嘘:聖職者の言うことだから、と信用できなかった地震学者 (この本の『コラム』から)

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