『花時計』(読売新聞・道内社会面)、1995年10月27日夕刊〔No.44〕

どこへ行った?道内学生


 例年、北海道大学に入る学生の半分は道内出身者である。では理学部の学生の半分が道内出身か、というと、じつはそうではないのである。

 たとえば理学部地球物理学科の3年生は33名いるが、そのうち道内出身者はわずかに6名、北大全体の平均の半分以下しかいない。

 これは例年のことだ。私は道内の出身ではなく、北大の卒業生でもないが、北大の理学部の出身者がほとんどである地球物理学の先生のうちの道内出身者は全体の6分の1しかいない。つまり昔から理学部には道内出身の学生が少なかったのである。

 では、半分いたはずの道内出身者はどこへ行ってしまったのだろう。

 どうも道内出身の学生は特定の学部に集中しているようなのである。そのうちでもいちばん目立つのが工学部だ。

 これがなぜだかはわからない。うちの道内出身の学生に、なぜ、珍しくも地球物理学を選んだのかを訊いても、道外出身の学生に、なぜ工学部を選ばなかったのかを訊いても、ごく個人的な事情の答えしか返ってこないに違いない。個から全体は見えないのである。

 工学部と理学部、一般の方には区別がつかないかも知れないが、工学部はすぐにでも役に立つ学問、理学部はいつ役に立つとも分からない学問、というほどの違いがある。

 道内出身者の遺伝子には、明日にでも役に立つものを、という開拓者精神が組み込まれているのであろうか。

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