『花時計』(読売新聞・道内社会面)、1992年12月22日夕刊〔No13)

貧乏学者の海外巡検

 北海道の観光客が7年ぶりに減ったという。統計の「観光客」とは、どこでどうして数えているのか知らないが、本州から札幌を訪れるビジネス客も、巡検の、つまり研究材料がある土地へ行って1月ほど岩や地質の調査を続ける地球科学者たちも、数には入っているのであろう。

 先日、静岡大学や東北大学の先生から聞いたところによれば、近頃は北海道をフィールドにするよりは、米国やニュージーランドや韓国をフィールドに選ぶ学生や大学院生が増えてきたという。

  研究テーマとしての魅力のせいではない。理由は外国のほうが旅費が安くてすむからだという。韓国はもちろん、米国でさえ現地での宿代や食糧はずっと安いし、ときには飛行機賃さえも沖縄や北海道へ行くよりも安いからである。

 研究者の巡検とは質素なものである。国内ではホテルに泊まれることはまずなく、月ぎめの下宿屋に逗留したり、ときには自炊しながら車の中で寝泊まりする。怪しげに見えるのであろう、警官に不審尋問されることも珍しくない。

 最近の日本の物価はこれら研究者を直撃した。研究テーマの国際化といえば聞こえはいいが、実際は日本から追い立てられてテーマを外に選んでいるわけである。

 北海道の地球科学の進歩の敵のひとつは日本の物価高なのである。

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