『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、1999年4月27日夕刊〔No.258〕

大学が孤立した日


 4と13という数字の不吉さどおりに、去る4月13日にはひどい目にあった。

 朝、北大に着いてコンピューターの中にある電子メールの郵便箱を開けてみたら、なにも入っていない。私の場合、1日に50 - 60通ほど届くから、前夜からひとつも届いていないということは異常なことだ。

 電子メールだけではない。インターネット全部が使えなくなっていた。国内外の大学と通信したり、データや画像をやりとりすることができなくなっていたのだ。

 私たちはこの4月の末からノルウェーの観測船を借りて大西洋で人工地震の観測をするから、その実験の準備の打ち合わせだけでも、1日に何通もの電子メールをノルウェーとの間でやりとりしていた。また、アルゼンチンと準備している南極の観測とか、先年オーストラリアとやった観測のデータ整理など、毎日のように情報を交換している相手がいる。つまり、すべての研究活動がとまってしまったのであった。国内の他大学との通信もできなくなっていた。

 そのうち、電子メールの管理者から通知があった。朝6時38分、室蘭の近くで通信ケーブルが切れて、北海道地区の大学全部をまとめて東京につなぐ大学間ネットがとまっている、切断箇所を調査中だが、回復の見込みはたっていない、というものだった。つまり、私にかぎらず、北海道の大学全部が「孤立」していたのである。

 幸い、というべきか、その日の夜にはケーブルを直したのか、あるいは別のケーブルに迂回させたのか、直った。結果的には半日のロスですんだのだが、私たちにとっては、冷や汗の1日だった。

 何日かたって、原因が分かった。ある牧場で、病死したウマを埋めるために墓穴を掘っていたブルドーザーが、地下に埋まっていたケーブルを切ってしまったのだという。死んだウマが北海道中の大学をあわてさせたことになる。

 たった1カ所のケーブルの障害だけで、北海道の大学全部に影響してしまう仕組みになっているとは私も知らなかった。これにかぎらず、私たちの「近代的な」生活は、意外に脆弱なものに頼っているのであろう。

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