『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2004年10月22日夕刊〔No.318〕

学資のハードル

 文部科学省は大学生の親の収入を調べている。最新の結果によれば、学生を持つ家庭の年収は、国立大学の場合、平均831万円、私立大学では920万円だった。つまり裕福でないと、学資が高い私立大学には通わせられないのだろう。

 100万円ごとに切った層別に見ると、年収が500万から1100万円の層が全体の約六割ともっとも多く、それ以上も、それ以下も、ずっと少ない。

 それ以上の層は、そもそも絶対数が少ないのだろうが、500万円未満の層では、収入が減るにつれて数が減っていく。

 それでも年収300万円未満の層が、国立では7パーセント、私立でも4パーセントいる。下宿する学生への仕送りは、国立でも150万円ほどかかるのが普通だから、家庭としては、たいへんつらいに違いない。

 一方、学生が男か女かで家庭の収入が違う。国立の場合、男子学生の家庭の平均収入は国立で811万、私立で905万円だが、女子学生は、それぞれ860万と938万円になる。

 つまり、男の親は無理をしても大学に行かせたがるが、女の場合は、経済的に余裕がないと行かせてもらえないことが多いのだろう。この調査には短大も入っているから、それを考えれば、女の学生にとっての家庭の経済のハードルは、より高い、といえよう。

 ところで、ドイツやノルウェーは、日本と違って、授業料は無料だ。学力の前に別のハードルを越えてこなければいけない学生を教える教師としては、教育の機会が均等なことは、明日の社会の活力のはずだ、と嘆くしかないのである。

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