『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2000年11月27日夕刊〔No.276〕

海底地震計が拾ったタマゴ

 私たちが作り上げて使っている海底地震計は、短ければ1週間、長ければ2カ月ほど、海底で観測してから引き上げる。その間のデータを海底で記録する仕組みである。

 海底地震計そのものは6000メートルの水深に耐えられるのだが、研究の目的によって、さまざまな深さの海底に置くことになる。

 先日は、襟裳岬のはるか沖、水深2600メートルほどのところに、約2カ月設置しておいた海底地震計を回収した。回収は、海底にある地震計に信号を送って、海面まで浮き上がらせるのである。

 上がってきた海底地震計を見て、皆が目を剥いた。ソフトボールよりも大きな魚の卵塊が2個も着いてきたからであった。タマゴの一個一個はイクラを少し大きくした大きさだが、それが大きな丸い塊になって、海底地震計に着いているロープにしっかり巻き付いていたのである。イクラと違って色は白色で、半透明のものだ。皮はイクラよりもはるかに固くて、船の甲板に落とすと、高く跳ね上がった。

 海底地震計が沈んでいったり浮き上がってくるときの速さは毎秒一メートルもあるから、その移動中に卵を産み付けたとは思えない。深海の海底に住む魚の仕業であろう。もちろん、いずれ浮き上がるものと知って産み付けたはずはない。

 私たちはこれが何の卵か知らない。以前は漁船に乗っていた船乗りたちも知らなかった。

 日本各地には、八百比丘尼伝説というものがあり、人魚を食べた海女が800年も長生きしたと言い伝えられている。気味悪がらないで、私たちも食べてみたらよかったのだろうか。

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