島村英紀『北海道新聞』 2015年2月8日(日曜)。「ほん」頁。15面

天下の行方 影響大きく
教訓を引きだそうというところにやや無理が

書評『天災から日本史を読みなおす 先人に学ぶ防災』磯田道史(著)。中公新書

 日本はいろいろな自然災害にたびたび襲われてきている。この本は地震、火山、台風が日本の政治にどんな影響を与えたかについて日本史の資料を読み解いたものだ。

 はるかに優勢だった豊臣秀吉の軍勢は徳川家康への攻撃を準備してあと2ヶ月に迫っていた。しかし天正地震(1586年)が起きたために秀吉は戦争どころではなくなった。この地震は被害の記録が日本海の若狭湾から太平洋の三河湾に及ぶ大地震だった。地震が家康を救ったのだ。

 そして10年後にまた襲ってきた大地震。この伏見地震で秀吉とその周辺ではまたもや大被害を受けた。地震後の対応のまずさもあって秀吉の天下は終わることになる。

 このほか元禄関東地震(1703年)から宝永地震(1707年)そして宝永地震の49日後の富士山の宝永噴火に至る激動の日々の政治の混乱や、文政京都地震(1830年)が京都とそこに住む天皇に与えた大被害も書かれている。

 また1680年の台風で静岡県袋井の藩を治めていた大名が領地を召し上げられたこと、また1828年のシーボルト台風が佐賀藩に及ぼした大きな政治的影響も書かれている。1680年の台風は江戸時代最大のもので静岡だけではなく江戸にも甚大な影響を与えた。日本に多い自然災害が、いかに日本の政治を左右してきたかが分かる。

 史実としてはじつにおもしろい。しかしこれら日本史上の災害から今後への教訓を引きだそうというところにやや無理があろう。

 自然現象は同じものが繰り返すわけではない。日本人が住み着くはるか前から日本列島は地震や噴火や台風に襲われてきたのだし、今後は地球温暖化による「気象の凶暴化」もあり、私たちが知らないもっと大きな災害が来るかもしれないのである。

 一方、文明とともに災害も変化してきているはずである。災害とは自然現象と社会との交点で起きるものだ。本書にはその視点が弱いのはやや残念なことである。

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