島村英紀・オピニオン「地震と新幹線」2022年3月共同通信配信で各地の新聞に掲載
『中国新聞』(4月1日)、『日本海新聞』(4月2日)、『大阪日々新聞』(4月2日)、『長崎新聞』(4月4日)など。2022年3月。{1320字} 
共同通信の担当者からは「関心が高く、掲載率は他の識者に比べ高いようです。まだ他にもあるはずで、本当に多くの新聞に掲載されています」という通知が来ています。

「地震と新幹線」(オピニオン欄)
今後も余震続く可能性   新幹線に多くの懸念

 宮城、福島両県で3月16日深夜に最大震度6強を観測した地震の規模はマグニチュード(M)7.4だった。2011年に起きた東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の本震の震源域の中で起きた大きな余震とみていい。

 東北地方太平洋沖地震はM9・0だったから、余震は長く続く。米国では余震が200年以上も続いている例もある。ミズーリ州とケンタッキー州の境で1811〜12年にかけての3カ月弱の間にM8を超える大地震が続けて3回起きた。その余震である。

 東北地方太平洋沖地震規模の大地震だと余震はやはり100年以上続くと思われている。これからも余震が続き、さらに大きなM8級の地震が起きても不思議ではない。東北地方太平洋沖地震のひずみはまだ解消されていないからだ。

 大きな懸念は今回、宮城県白石市で新幹線の脱線事故が起きたことだ。「やまびこ223号」が乗客75人を乗せたまま、白石蔵王駅の約2キロ手前で地震を検知、急ブレーキをかけたが17両中16両が脱線した。車輪の大半がレールから外れているのが確認された。

 04年の新潟県中越地震でも、走行中だった上越新幹線が脱線して傾いたことがある。この列車は長岡駅に停車するために減速中で、フルスピードではなかった。そこにいくつもの幸運が重なった。

 豪雪地帯にしかない排雪溝にはまり込んだまま滑走したこと、現場の線路がカーブしていなかったこと、高架であったためにレールのすぐ脇がコンクリートだったことなどだ。対向列車がなく正面衝突をしなかったのも幸いだった。

 重大なのは地震のわずか3分前に、この列車が長さ約8・6キロの魚沼トンネルをフルスピードで駆け抜けていたことだ。同トンネル内では地震でレールの土台が25センチも飛び上がり、1メートル四方以上の巨大なコンクリートが壁から多数落ちたほか、各所が崩壊していた。地震が列車の通過時に起きていたら、大事故になっていたことは間違いない。

 今回の脱線でも対向する上り線への横倒しなど甚大化は避けられた。だが、福島―白石蔵王間の高架橋で損傷が見つかった。同区間では、架線をつっている電柱の傾斜や圧壊も起きている。新幹線そのものに耐震補強が施されても、線路が地震に耐えられないとなると、問題は大きい。人命にかかわるような事故にならなかったのは、今回も単に運が良かっただけだといえる。

 日本は地震多発地帯である。今の学問では、いつ、どこで地震が起きるかを知ることはできない。新潟県中越地震や東北地方太平洋沖地震も、前兆を捉えられなかった。

 着工したリニア中央新幹線は全区間の86%がトンネルだ。そして危険はトンネルや橋脚だけではない。阪神淡路大震災では地震に耐えるはずだった新幹線の鉄道橋がいくつか落ちた。もし発生が早朝ではなく運行時間帯だったら大事故になったに違いない。

 高速鉄道は、もしかしたら日本には適さないものかもしれないのだ。

× ×

しまむら・ひでき
1941年東京都生まれ。武蔵野学院大学特任教授。69年東京大から理学博士号。専門は地震学。北海道大教授、国立極地研究所長などを歴任。2005年4月から現職。「多発する人造地震―人間が引き起こす地震」など著書多数。

この記事

●共同通信配信の『指評』過去の島村英紀の執筆5:「日本の地震予知 大震法延命は誤り 前兆検知は科学的に不可能2018年1月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆4:「地球物理の観点欠く経産省の核のごみマップ2017年9月
●共同通信配信の『指評』過去の島村英紀の執筆3:静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク」2017年5月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆2:「人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を」2016年10月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆1:「熊本地震は内陸直下型 どこでも起こる可能性」2016年5月

上の記事を見て、取材を受けました。
脱線現場は「3・11超」の破壊力、耐震化も道半ば 東北新幹線
産経2022/4/14 21:35
東北新幹線が全線で運転を再開。最後の不通区間だった福島ー仙台間を走る東北新幹線の車両=14日午前、福島市(鴨川一也撮影)

 14日に全線で運転を再開した東北新幹線。東日本の大動脈だが復旧まで約1カ月を要した。3月16日の地震では、車両脱線に加え、高架橋や架線設備などの損傷被害が約1千カ所に及んだ。脱線現場の揺れの破壊力が東日本大震災を上回っていたことも判明。震災の余震域で地震が頻発する中、全面的な耐震化は道半ばで、被害が繰り返される懸念は拭えない。
 JR各社や国土交通省などが参加し、3月31日に開かれた「新幹線脱線対策協議会」で、地震によって構造物にどの程度の被害が生じるかを数値化した「SI値(スペクトル強度)」についての報告があった。破壊力の指標となるものだ。
 今回脱線があった白石蔵王駅(宮城県白石市)付近の地震計のSI値は89・4。東日本大震災時(67・6)の約1・3倍だった。地震の規模を示すマグニチュード(M)は7・4と震災の9・0を下回るが、震源が内陸寄りだったことなどが影響した可能性がある。
 この激しい揺れに対し、過去を教訓にした耐震化工事などが一定程度効果を発揮したというのが、JR東日本の見解だ。
 設備関連では、電柱や架線、レールなど計約1千カ所で損傷が確認されたものの、線路を支える高架橋の柱では耐震化工事が済んでいたものは全て無事だった。未着工の20本で根本部分のコンクリートが一部崩落するなどしていた。
 新幹線は、全17両編成のうち16両が最大1メートルの幅で脱線。乗客6人が打撲などを負い、新幹線の脱線事故で負傷者が出た初のケースとなった。一方、車軸部分に装着されたL字形の「逸脱防止ガイド」と呼ばれる金具が線路に引っかかり、車両の横転や高架橋からの落下といった深刻な事態には至らなかった。
 時速約150キロで走行していた午後11時34分、1回目の地震が発生。非常ブレーキが作動し、停車か停車の直前まで減速したタイミングで2回目の揺れにより脱線したとみられる。
 武蔵野学院大の島村英紀特任教授(地震学)は「仮に最高速度で強烈な揺れに見舞われていた場合、被害が甚大化していた可能性が高い。今回はある意味で幸運だった」と評する。
 昨年2月13日には、今回と近接する震源で最大震度6強の地震が発生。東北新幹線は全線での運転再開に約10日かかった。
 2つの地震は東日本大震災の余震域で起きており、島村氏は「今後100年間は余震は続き、震災と同等の揺れが起きても不思議はない」と分析。脱線対策に加え、トンネルなども含む各構造物の補修強化、迅速化も求める。
 JR東が管内で耐震化の必要性があると判断した柱は約5万5千本で、うち約1万8千本が未着工。約9600本の完了目標は7年後の令和11年3月末に設定され、残りは未定という。
 脱線原因は運輸安全委員会が調査しており、JR東は従前からの脱線対策や耐震化の効果を検証する。担当者は、「まずは全線再開を最優先に準備を整えた。今後、被害状況などの精査を進め、必要に応じて見直していく」と話した。(中村翔樹)

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