島村英紀・現論「人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を」2016年10月共同通信配信で各地の新聞に掲載
『デーリー東北』2016年10月7日(金曜)朝刊19面、『新潟日報』2016年10月8日(土曜)朝刊29面(オピニオン面)、『岐阜新聞』2016年10月8日(土曜)朝刊4面、『茨城新聞』2016年10月9日(日曜)6面、『信濃毎日新聞』2016年10月9日(日曜)朝刊5面、『日本海新聞』2016年10月9日(日曜)朝刊3面(総合面)、『山口新聞』2016年10月9日(日曜)朝刊3面(総合面)、『山形新聞』2016年10月9日(日曜)朝刊8面(論説・解説面)、『福島民友』2016年10月9日(日曜)朝刊6面、『河北新報』2016年10月10日(月曜)朝刊、『岩手日報』2016年10月10日(月曜)朝刊6面(解説・評論面)、『高知新聞』2016年10月10日(月曜)朝刊19面(オピニオン面)、『下野新聞』2016年10月12日(水曜)朝刊15面、『愛媛新聞』2016年10月13日(木曜)朝刊6面(総合面)、『中国新聞』2016年10月15日(土曜)朝刊6面(オピニオン面、『熊本日日新聞』2016年10月15日(土曜)朝刊4面(オピニオン面)、『山陽新聞』2016年10月16日(日曜)朝刊4面(オピニオン面)、『神戸新聞』2016年10月17日(月曜)朝刊13面(月曜オピニオン面)、『宮崎日日新聞』2016年10月17日(月曜)朝刊6面(マンデー知っ解く面)、『京都新聞』2016年10月25日朝刊(火曜)7面など。{1700字} 

人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を
(新聞社によっては見出しが違います。たとえば新潟日報は「人間が起こす地震」


 地震学の教科書には、「米国では西岸のカリフォルニア州と北部のアラスカ州だけに地震が起きる」と書いてある。

 しかし情勢は変わった。2014年には米国南部にあるオクラホマ州で地震が以前よりも50倍にも増えて、全米一になったのだ。

 同州では、この9月3日にマグニチュード(M)5.8 の強い地震が起きた。近くに都会があれば、大きな被害を生みかねない規模だ。かつて2011年11月に起きた地震でも負傷者が出たり家屋が倒壊したりするなどの被害が出ていた。

 オクラホマ州では2008年までの30年間に起きた地震は、ごく小さなM3まで数えても2回しかなかった。つまり日本とはちがって、そもそもは先天的な無地震地帯だった。

●水圧が原因

 最近起きている地震は、間違いなく「人間が誘発してしまった地震」である。人間が地球内部に対してなにかをすれば地震を起こすことが知られるようになってきた。

 最初に知られたのは1962年のことだった。

 米国のコロラド州の軍需工場で放射性廃液の始末に困って、約4キロメートルもの深い井戸を掘って捨てた。ところが、それまで地震がまったくなかったところに地震が起きはじめた。

 多くは小さな地震だったが、なかにはM5を超える結構な大きさの地震まで起きた。生まれてから一度も地震を感じたこともない地元では大きな騒ぎになった。

 このほか、世界各地でダムが地震を起こしている。大きな被害が出たものに1967年にインド西部でM6.3の地震が起きて一説には2000人もが死傷した例がある。コイナダムという巨大なダムを造ったことで引き起こされた地震である。

 最近、オクラホマ州をはじめ米国各地で起き始めているのはシェールガス採掘によるものだ。

 この採掘には「水圧破砕法(フラッキング)」という手法が使われている。化学物質を含む液体を地下深くに超高圧で注入して岩石を破砕する手法だ。これによってシェール(頁岩=けつがん)層に割れ目を作る。そこから層内の原油やガスを取り出す掘削法である。

 この手法では大量の廃水が生まれる。これを地下1キロほどの深さに掘った廃水圧入井に圧力をかけて注入することで処分している。

 シェールガス採掘に限らず、石油や天然ガスの掘削、ダム、廃液の地下投棄。地球内部に影響を及ぼす作業が地震を起こす例はこのところ世界的に増えている。

 岩の中でひずみがたまっているとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする、つまり地震を起こしやすくする働きをするのだ。いわば、地下のエネルギーを解放する「引き金」を引いてしまったのである。

●しっぺ返し

 オクラホマ州では非常事態を宣言して、州内に3200ある廃水の圧入用の深井戸のうち37の排水井に対して10日間の使用中止を指示した。2016年1月にも27の排水井に対して停止を指示したことがある。

 これで事態が収まるかどうかはわからない。いままでの世界の例だと、地下への注水量の急激な変化は、圧力が増える場合にも、また減る場合でも地震を多発させることがある。増減いずれの方向でも、地下の圧力の変動は地震を起こすことがあるのだ。

 地震を多発させているのはオクラホマ州には限らない。米国で地震観測を担当している米国地質調査所(USGS)は今年3月に公表した報告書で、地震発生予測地図の対象に初めて人為的な地震も含めた。

 USGSによると米国で人為的地震の危険が多い州は、危険度の高い順に、オクラホマ、カンザス、テキサス、コロラド、ニューメキシコ、アーカンソーの各州だという。

 これらの州ではM3以上の地震が、2011年段階ですでに20世紀の6倍にも増えている。いずれもシェールガス採掘が最近盛んになった州だ。

 化石燃料の中では環境影響が小さく、また安価なために「革命」とまでいわれたシェールガスだが、その開発にはさまざまなリスクが伴うことを忘れてはいけないのだろう。便利さだけを追及した技術は、いつかは地球にしっぺ返しをされるのかもしれないのだ。

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2017年9月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆3:「静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク」2017年5月
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