島村英紀・現論「熊本地震は内陸直下型 どこでも起こる可能性」2016年5月共同通信配信で各地の新聞に掲載
『西日本新聞』2016年5月13日「学び・論2016」(金曜)夕刊、『熊本日日新聞』「視点・現論」(夕刊)と『岐阜新聞』「現論」(朝刊)2016年5月14日(土曜)、『山口新聞』「現論」と『日本海新聞』「現論」と『茨城新聞』「現論」2016年5月15日(日曜)朝刊、『岩手日報』「現論」と『高知新聞』「現論」2016年5月16日(月曜)、『東京新聞』(夕刊)と『中日新聞』「文化芸能」(夕刊)と『下野新聞』「現論」(朝刊) 2016年5月18日(水曜)、『愛媛新聞』「現論」 2016年5月19日(木曜)、『静岡新聞』「解説・主張SHIZUOKA・現論」2016年5月20日(金曜)朝刊、『信濃毎日新聞』2016年5月22日(日曜)朝刊、『神戸新聞』「オピニオン 識者の視点」2016年5月23日(月曜)、『京都新聞』「現論」 2016年5月24日(火曜)、『宮崎日日新聞』2016年5月23日(月曜)など。{1700字} 

熊本地震は内陸直下型 どこでも起こる可能性
(新聞社によっては見出しが違います。たとえば宮崎日日新聞は「内陸直下型地震 全国連鎖の可能性大」


 熊本県で震度7を2回記録した。

 7という震度の指標は1949年に新たに導入されて以来、今回まで3回しか記録されたことがなかった。震度1以上の地震の回数も既に1300回を超えた。

 地震には「海溝型地震」と「内陸直下型地震」がある。前者はプレートの境である海溝で起きる。2011年に起きた東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)が海溝型地震だ。

 内陸直下型地震はプレートが押してくることで、その歪み(ひずみ)がたまって、地下のどこかで岩が我慢できる限界を超えてしまったら起きる。今回の熊本地震をはじめ、日本列島のどこでも起きる可能性がある。

 地震としての規模は海溝型地震よりも小さいが、人が住んでいる直下で起きるので揺れが強く、被害も大きいことが多い。

▽大きい加速度

 内陸直下型地震の特徴は地面の加速度が大きいことだ。地震のときに、建物や橋などにかかる力は、そのものの重さに「加速度」をかけたものになる。加速度が大きいほど、そのものに大きな力がかかって、場合によっては倒壊したり破損したりするのだ。

 今回の益城町での加速度も1580ガルを記録した。かつては「重力の加速度」である980ガルを超える地震動はあるわけがない、と学者のあいだでは思われていたが、観測器が増えて大きな値が記録されるようになった。

 各地に起きた内陸直下型地震では、軒並み980ガルを超えて、大きいものは4000ガルを超えた。新潟県の東京電力柏崎刈羽原発が2007年の中越沖地震で停止してしまったときは、原発の構内にある地震計が記録した加速度は1500ガルにも達していた。「重力の加速度」である980ガルを超えるということは、たとえば地面の上にある石が飛び上がることだ。

 じつは、各地の原子力発電所は、ここまでの加速度を想定していない。いままでの設計基準ではせいぜい500〜700ガルなので、それを超える地震の加速度に襲われたとき、いったい何が起きるのかが地球物理学者としては心配なことなのである。

▽地震の連鎖

 熊本地震は典型的な内陸直下型地震だったが、もうひとつの特徴がある。それは、この地震は日本最長の断層帯である中央構造線が起こした地震だったことだ。中央構造線は、長野県から西へ延びて紀伊半島を横切り、四国の北をかすめ、大分から鹿児島まで九州を横断する長さ1000キロもある大断層だ。

 地質学的な研究から、この大断層は日本人が日本列島に住み着く前に何百回も地震を起こしてきたことが分かっている。日本人が知らない地震の歴史は長いのである。

 この大断層に沿って地震の「候補地」が並んでいる。熊本で大地震が起きたことによって、その部分の地震エネルギーが解放された。だがそれだけではすまなかった。大地震が起きたことは、隣の地震との間の「留め金」が外れたことになる。もし隣が、いまにも地震を起こすだけのエネルギーを貯めていれば、支えを失って連鎖的に地震が起きる可能性がある。

 こうして、熊本の地震の次に阿蘇山の下で地震が起き、さらに大分でも地震が起きた。また、熊本県の西南方にある八代市でも地震が続いた。もし東に行けば、次は愛媛県沖、西南に広がれば鹿児島県に入る。ともに原発があるところだから、地球物理学者としては気が気ではない。

 この連鎖がさらに続くかどうかは隣の「候補地」にどのくらいの地震エネルギーが貯まっているかによる。しかし現在の地球科学では、地下にどのくらいのエネルギーがたまっていて、どのくらい地震に近いかは分からない。

 トルコでは1000キロの長さのある北アナトリア断層に沿って、東から西へ、約60年かかって大地震が連鎖的に起きたことがある。

 今回の内陸直下型地震はほかの地域の人たちにとっては「対岸の火事」ではない。活断層は中央構造線だけではない。日本中にあり、分かっているだけで2000、分かっていないものはその3倍以上もあるのではないかと考えられている。

 つまり、知られていない直下型地震は、これからも、日本のどこかを襲うのに違いない。この事実を私たちはいつも心に刻んでおく必要があるのだ。

この記事

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●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆4:「地球物理の観点欠く経産省の核のごみマップ
2017年9月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆3:「静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク」2017年5月
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